京阪アクセントの史的変遷

中井幸比古


 (1)アクセントに関わる弁別的特徴として設定されている用語について、 整理を行い、(2)院政期以降、現代に至るまでの京阪アクセントの体系の変 遷を、文献資料および現代諸方言の両面からたどり、(3)近世以降の所属語 彙に関するアクセント変化について、現代諸方言の資料から推定を行った。

 (1)については、契機・核・アクセント;式・語声調について、諸家によ る定義を引用し、整理を行った。

 (2)について。院政期のアクセント体系は2式2契機(核)−−高起式・ 低起式・昇り契機・降り契機−−が弁別的であったが、南北朝時代のアクセン ト変化によって2式1核−−高起平進式・低起上昇式・下げ核−−が弁別的な 体系に変化をした。また、室町期以降の各時代の京阪アクセントと同様の体系 が、近畿・四国の各地の方言に分布していることを述べた。

 (3)について。現代高知・徳島・播磨・大阪・京都アクセントなどを資料 にして、3拍体言H2→H1、4拍体言H3→H2、5拍体言H4・H2→H3型への変化が 推定され、これらは、-3型(語末から3拍目に核)への変化としてまとめられ る。3拍の変化はかなりの程度規則的だが、4拍の変化は語末が特殊拍の場合 にほぼ限られ、5拍では2+3の複合語にのみ顕著である。この変化の開始時 期について、近世前半の資料では変化が起こっておらず、幕末の京都・奈良生 の人が大正時代に吹き込んだSPレコードではすでに変化が起こっていること から、近世後半から近世末期が想定される。