ラチ語には43、23、45、22、21の5声調(軽声を含めれば6声調) が認められる。ラチ語のトーンサンディとは、基本的にはそのうち上昇調の23 と45の2声調が、名詞句や動詞句内、時には主述間において、間に休止(/#/ )が存在しない場合、後続の音節の声調を45へと上昇させる(もともと45の 場合はそのまま)機能を持つというものである。しかし、休止が存在しない場合 であっても、注意深くなされた発話や同音衝突をもたらす可能性のある発話で は、トーンサンディが適用されないことがある(例えば、“来年”は/phji23 m23/で、決して/ phji2(3) m45/(=“犬年”)とはならない)。軽声が当該音 節間に介在する場合には、それを飛び越える(あるいは無視する)形でトーンサ ンディの適用が行われる。以上、23と45に関するサンディは、音声学的に見 れば声調の順行同化的なものと捉えることもできる。23、45以外のサンディ については、声調22が後続音節の声調の低下機能(23(あるいは22)へ) または上昇機能(45へ)を有する場合がある(そのうちいずれの機能を有する かについては場合による)が、この声調22に関するサンディの実態の詳細及び 起源についてはいまひとつ判然とせず、今後の課題である。
通時的な観点からは、現在では接頭辞付加の複音節語として分析されるいくつ かの語(“鶏”、“生姜”、“木”など)が見せる不規則声調は、歴史的にトー ンサンディを被ったためであると考えればうまく説明がつく。