東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
情報資源利用研究センター・プロジェクト

オスマン歴史地理大事典データベース化プロジェクト

last updated 2011/03/31

研究計画概要

シェムセッティン・サーミー Semsettin Sami (Shemseddin Sami)著『世界歴史地理大事典Kamusu'l-Alam/ Qamus al-A'lam』(フランス語タイトルDictionaire universel d'histoire et de géographie)全6巻(イスタンブル,ヒジュラ暦1306-16年,西暦1889-98年)のオスマン語全文のアラビア文字テキスト入力によるデータベース化と地名索引作成の事業です.

全部で4830頁の本大事典は,オスマン帝国を中心とした世界の歴史的地名・人名について約2万項目(推計)が立てられています.19世紀末のオスマン帝国首都における歴史的・地理的知識の総体と言うべきもので,当時のオスマン知識人が持っていた世界認識の広がりと偏差を同時に示すものです.


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1.『世界歴史地理大事典』全6巻

2.『世界歴史地理大事典』第1巻見開き

3.『世界歴史地理大事典』第4巻見開き


たとえば,「日本 japonya」項目は,約6頁にわたって,「国土の位置・大きさ」「島々・海峡・湾」「自然環境・山々・河川」「気候」「産物・動物・植物」「住民,その人種・言語・宗教」「行政区画」「統治の起源・財政・軍事力」「歴史的諸事件」といった小見出しが立てられ,記述されています.


本研究計画は次のような効果が得られるものと期待されます.

1) イスラーム圏,とりわけオスマン帝国の歴史的な地名や人名について,利用者が調べたいものを検索して内容を特定することが可能になります.オスマン語の理解力が必要にはなりますが,イスラーム圏の歴史研究者全体に裨益するでしょう.

2) 都市名だけを取り出してきて,それらを地図上に落とせば,19世紀末のイスタンブルで活動していた知識人の地理的認識の範囲と,その粗密が明らかになるでしょう.また国毎に「歴史的諸事件」項目を取り出してきて相互に比較すれば,歴史認識の実態も浮かび上がるかもしれません.当時の時間的・空間的な知の体系を復元する可能性があり,それは言わば地域研究の歴史化作業の一環をなすことでしょう.

3) 世界の他地域における同時代・同種の歴史的事典のデータベース化が進めば,知の体系の相互比較,その発達過程の比較も可能になると思われます.本研究計画はその先鞭をつけることになります.

4) 将来的には,地名と地図情報との連関を付けたいと考えています.

テスト公開版,事典の写真,編纂者の情報など,随時追加していきます.


シェムセッティン・サーミー(1850-1904)は,19世紀末オスマン帝国の代表的な知識人・文筆家の一人です.現在のギリシア領にてアルバニア人として生まれ,成人してからはイスタンブルでジャーナリストとして活動しました.当時の国際問題を的確に把握し,ヨーロッパ文明の適切な導入を求めながら,オスマン帝国の統一維持と帝国内諸民族の文明化・社会改革とを同時に実現することを主張,アルバニア語,トルコ語それぞれの近代国民言語化を推進しました.新聞や雑誌で健筆を振るいながら,本大事典のほか,『トルコ語・フランス語辞典』Dictionnaire turc-français (1885), 『フランス語・トルコ語辞典』Dictionnaire français-turc (1898), 『トルコ語辞典』Kamus-i Turki (1899-1900)を編纂しました.【参考文献:石丸由美「シェムセッティン・サーミーと『ハフタ』」『オリエント』32-2,1989年】


テスト公開版(「凡例」を除き,すべて編集・印刷不可のpdf。*印は2010年度の追加データ)

なお本プロジェクトは、日本学術振興会科学研究費基盤研究(A)(1)「新たな東地中海地域像の構築」(2004-07年度:研究代表者・黒木英充)の支援も得ました。


プロジェクト代表者:黒木英充