「文科系研究者にとってのネットワーク管理」

永崎研宣
nagasaki@logos.tsukuba.ac.jp
筑波大学哲学・思想研究科

 インターネットの普及に伴い、文科系の研究組織においてもネットワークの整備が求められるようになってきている。しかしネットワークの整備を行っていく際には管理の問題が常につきまとう。管理の問題が障害となってネットワークの整備はなかなか進まず、整備が進まないために有効利用も行われない、というケースは多く見られる。文科系のネットワークを整備し有効に活用して行くには、管理の問題の解決が急務なのである。本稿では筆者のネットワーク管理の経験に基づき、文科系研究者の手でネットワークの管理運用を行っていく際の可能性と問題点について整理・検討する。

Network administration for scholars of Humanities and Arts

NAGASAKI, Kiyonori
nagasaki@logos.tsukuba.ac.jp
Doctoral program in Philosophy

 Under the spread of Internet, even institutes of Humanities and Arts have come to be required to equip themselves with LAN. However, problems of network administration constitute an obstacle to the equipment. This is why in many of the institutes LANs cannot be used effectively. It is necessary to solve those problems for the equipment and the effective use. This article aims to consider some possibilities and problems of network administration by scholars of Humanities and Arts, on the basis of the author's administrative experiences.

1 序

1. 1 文科系におけるインターネットの現状
 現在、インターネットが研究・教育に有用なものとして広く認識されるようになっているということにはもはや疑いの余地はない。元々インターネットは大学をはじめとする研究機関において発達・普及してきたものであり、主に研究の対象や研究に資する様々なツールとして理科系の研究機関・組織においては既に一定の立場を確保している。
 一方、ここ1,2年の間に、文科系の研究機関や研究組織においてもまたその有用性が認識され始め、今や、単なるコミュニケーションのツールとしてだけではなく教育・研究を補助するためのツールとしての役割をも担うものとなりつつある。教育におけるインターネットの重要性はもはや言うまでもないが、研究においても、メーリングリストによる専門の研究者同士の情報交換や情報の蓄積は既に幾つかの分野で成果を上げている。また、WWWにおける研究成果や各種データベースの公開も徐々に進みつつあり、後藤[1997]はWWWにおけるこうした建設的有機的情報発信の可能性に注目し、人文系研究者にとっての全体として質の高い学術情報の流通の場としての「ゆるやかな分散型総合学術情報システム」を提唱している。文科系の研究者にとっても、インターネットの利用は今後ますます重要なものとなっていくものと思われる。
(文科系のネットワーク利用に関しては、RFC2150をも参照)

1.2 文科系におけるネットワーク管理の必要性
 以上のような状況を見る限り、利用する側としてのインターネットへの認識は、文科系においても徐々に高まりつつある段階であると言えるだろう。しかしながら一方で、現在のネットワークは管理という側面を切り離して考えることはできない。ネットワークの管理はそれなりにコストのかかるものであり、また、管理責任の問題も複雑である。ネットワークの重要性が増せば増すほど管理責任の問題もまたどんどん重要かつ複雑になっていくのだから。
 それらの問題に対する一つの解決策として、一部の大学においては、現実の組織構成に対応したサブネット切り分けということが既に現実のものとなっている。管理を分散化することによって管理責任を明確化しつつ、それぞれのネットワークのローカルな状況に対してより柔軟に対応していくという意味でこの解決法は妥当な選択肢の一つと言えるだろう。しかしながらそのことは、文科系の研究機関・組織にとっても独自にLANを構築し運用していく必要性が生じつつあるということを意味する。筆者の属する組織においては、1997年4月よりサブネットが独立し、以来、Solaris2によるサーバを中心としてSMTP、POP、FTP、Telnet、HTTP、NFSといったサービスを提供し続けている。もはや、文科系の研究機関・組織に独自のネットワーク運用が可能なのかという問題は避けて通れない状況になりつつある。
 ネットワーク運用を行うにあたっては相応の負担がかかることになる。まずなにより、理科系においてすらしばしば指摘される管理者の不足という問題は、文科系の研究組織においてはより深刻である。というのは、まず、研究におけるコンピュータへの依存度が文科系は理科系のそれに比べて非常に低い。理科系においては計算等のためにコンピュータをユーザとして利用する機会がしばしばある研究者が多いと思われるが、多くの文科系研究者は計算等は行わず、コンピュータを利用するといってもワープロ以上のものではない。さらに、理科系においては、学会申し込みを電子メールで受け付けたり、論文そのものまでも電子メールでやりとりするなど、研究活動にあたってネットワーク利用が既に前提となっており、ユーザとしてのネットワークへの依存度も高い。そしてそれは、ネットワークの信頼性やそのための管理者の必要性に対する認識にもつながっていると思われる。しかしながら、まだまだネットワーク普及の途上にある文科系、とりわけ筆者の属する人文系にあっては、ネットワーク利用自体が未だ一部の限定された趣味的なものだという認識を脱しきることができず、従って、ネットワーク管理者の必要性が認識されるには未だ困難な状況となってしまっているのである。さらに、ネットワークの信頼性維持のための予算の問題もある。
 今後、ネットワークの需要が高まるに従い、個々の組織への管理の分散化はより進んでいくであろうが、その分散化によって生ずる問題は文科系の研究組織、或いは実際の管理を担当することになった研究者にとってとりわけ大きな負担となり、ネットワークの整備や有効利用の妨げとなることさえも十分に考えられる。この問題をどう解決するかということは、文科系におけるネットワーク利用という意味でも非常に重要なことであると思われる。本稿では文科系のネットワークにおいて生じ得る問題点について、主に筆者の所属する文科系研究組織におけるネットワーク管理の経験に基づいて検討していくことにする。

2 文科系におけるネットワーク管理の可能性

 文科系の研究機関・組織が独自にネットワーク管理をしていくことを可能にするには、まず実際に管理作業を担当する人材をどうするかという問題を克服しなければならない。この問題を解決するためには、まずは多くの理科系の研究室と同様に内部の構成員によるボランティアを組織・養成していくという選択肢を検討してみるべきだろう。また、業者、或いは理工系の学生などによるアルバイトへのいわゆる外注という手段、さらには、ネットワーク管理への専従という形でのポストを用意するということも検討課題となるだろう。まずはこれらの選択肢の可能性と問題点について検討する。

2.1 文科系研究者によるネットワーク管理の可能性
 まず、内部の構成員によるボランティアを組織・養成していくという選択肢について検討する。一見すると、文科系研究者にとって、UNIX系OSの搭載されたコンピュータを自在に操ってネットワーク管理を行っていくというのは非常に困難なことであるように思える。しかしながら、ネットワーク管理の必要性が高まるに従い、管理のために必要とされる情報へのアクセスが徐々に容易になってきているという現状がある。すなわち、それらの情報(源)に対して適切に接することができればネットワーク管理に必要な情報の収集がかなりの程度まで可能になってきているのである。その現状について、特に日本語で接することのできる情報を中心としながら以下に見てみよう。

2.1.1 ネットワーク管理のための情報の流通の状況
 ここ一年程の間に、ネットワーク管理をしていく上で依拠すべき重要なドキュメントが次々と翻訳され、公開・出版されている。とりわけ、オライリー・ジャパンにおいては、サブネット管理において非常に重要となる様々なドキュメントが相次いで翻訳出版されている。例を挙げるなら、この一年の間に、STMPサーバについては『sendmailシステム管理』(オーム社, 1997年9月)、ネームサーバについては『DNS&BIND改訂版』(オーム社, 1998年1月)、WWWサーバは『Apacheハンドブック』(オーム社, 1997年11月)、等が出版されている。その他、メーリングリスト用ソフトウェア、anonymousFTPサーバをはじめとする様々なサーバソフトの設定・運用についてのドキュメントも徐々に充実しつつある。
 サーバとして用いられることの多いUNIX系OSに関する解説書も、この数年の間に数多く出版されている。『UNIXシステム管理改訂版』(オーム社, 1998年2月)は比較的最近のUNIX系システムの総合的な理解の助けとなるであろう。また、個々のOSについても、とりわけFreeBSD、Linuxについてはそれぞれ『FreeBSDハンドブック』(アスキー出版局, 1997年)、『Linuxクイックリファレンス』(オーム社, 1997年)等の基本的なOSの解説書が出版され、さらに、フリーの利点を生かしたCD-ROM付き書籍という形でサーバ構築ガイドに類するものが多数出版されている。(構築ガイドはあくまで構築であって管理運用に資するものとは限らないが)。Linuxについては雑誌までも刊行された。また、商用OSについても、Solaris2の場合には初心者向けと思われるGUIベースの管理マニュアルをはじめ、それほどUNIX系OSに熟達していないような人を対象にしたと思われるシステム管理マニュアルが幾つか出版されているという状況である。

 また、WWWに目を向けるなら、ネットワークの管理やサーバプログラムのインストール・管理に関する様々な日本語ドキュメントが大量に公開されている。
 個々のサーバソフトの設定・運用については、基本的な部分は書籍によってカバーできるが、OSとの相性やパッケージ固有の問題といったローカルな問題は、書籍等でカバーされることがなかなか難しくドキュメントの不足がしばしば指摘されるところであった。しかし、主にボランティアの手によって、比較的充実したFAQや設定ガイド等がWWW上で入手可能な状態になってきている。
 UNIX系OSについても、既にFreeBSD、Linuxがそれぞれ独自にWWWサイトを展開し、FAQその他様々な情報を集積・公開している。Solaris2もベンダーのホームページにおいて膨大な管理マニュアルが公開され、検索も可能という状態になっている。
 書籍においてはなかなか得ることのできないソフトウェアの逐次的なセキュリティ情報もCERT、JPCERT、IPA等をはじめとする様々な機関においてWWW上で公開されている。多くのベンダが積極的にバグ・セキュリティ情報を公開するようになりつつあり、同時にWWW上(正確にはFTPである場合が多いがWWWで辿れるようにリンクされている)でパッチも公開するというケースが増えている。さらに、セキュリティ情報の収集・公開を積極的に行っているボランティアも存在する。ネットワークの管理運用においては、こういった情報源はもはや欠かせないものとなっている。

 出版物やWWW等のドキュメントから情報が得られないようなローカルな情報の場合でも、Netnewsやメーリングリストに質問するという手段がある。ネットワーク管理に関しては既に多くのNewsgroupが存在し、多くのボランティアの手によって情報の交換・蓄積がなされている。過去記事をWWW上から検索することも可能である。
 メーリングリストに目を向けるなら、総合的なセキュリティ問題に関してはCERT、JPCERTをはじめとするいくつかの組織によって勧告がなされるというシステムがある。また、個々のサーバプログラムに関しても、それらのほとんどにボランティアの手によるメーリングリストが存在し、情報の交換・蓄積が行われている。さらに、個々のUNIXシステムに関しても代表的なものについてはそれぞれにメーリングリストが存在している。
 このように、多くの人々の献身的な努力によって、ネットワーク管理のための情報収集のシステムはかなり整備されてきていると言えるだろう。こうした現状においては、上に挙げたような多くのドキュメントや情報交換の場から如何にして必要な情報を入手していくか、ということがネットワーク管理における情報収集のための一つの手段として重要になってくるのではないかと思われる。それを可能にするのは、多くのドキュメントを正確に理解するための読解力、必要な情報にたどり着くための検索力、必要な情報をより知識のある人から教授してもらうための基本的なコミュニケーション能力であると言えるだろう。(なお、それらの情報(源)に接するにあたっては、情報を享受するばかりでなく、自分が持っている情報を提供するということも忘れてはならないが。)

2.1.2 文科系研究者におけるネットワーク管理の能力について
 前項において、ネットワーク管理における情報収集に関する最近の状況について概観した。筆者が実際に管理作業を始めた1年前と比較しても、ネットワーク管理に関するドキュメントとドキュメントについての情報は非常に充実してきている。そのような状況は、文科系の研究者にとっても非常に好都合なものである。比較的手の入りやすいところに大量のドキュメントがあるという状況においては、それらのドキュメントを読みこなし検索するという技術が重要となる。そして、そのような技術について言えば、文科系研究者にとってもそれほど縁遠いものではない。
 また、メーリングリスト等における情報収集・情報交換は、基本的なコミュニケーションの能力に大きく依存しているものであり、これは文科系・理科系を問わない。
 こういった現状を考慮するなら、文科系研究者がネットワーク管理の実質的な作業を自らの手で行うということも不可能なことではない。

2.1.3 文科系研究者にとってのネットワーク管理の疎遠さ
 ここに至るまでに、文科系研究者がネットワーク管理に携わるにあたっての前向きな方向性のみを検討してきた。しかしながら実際には、中村[1998]において指摘されているように、克服の困難な幾つかの問題点もまた存在する。中でも最も大きいのは、UNIX系OSをはじめとするネットワークOSへの馴染みが薄いという点だろう。LinuxやFreeBSDを趣味に利用していたり研究のためのツールとして役立てているという例はごく稀に見受けられる。しかし、総じてパソコンOS上でワープロを用いて論文を書く程度というユーザが多いということは事実である。電子メールの読み書きやWWWのブラウジングにしても、詳しい人に教えてもらってその通りにやっているだけというケースが大半であり、自らホームページを作るというだけでも困難を感じるというケースが多く見られる。パソコンに対してすら苦手意識を持っている人が少なからずいるという状況では、サーバOSとして用いられることが多いUNIX系OSをネットワーク管理というレベルにまで使い込める人は決して多いとは言えない。ネットワーク管理者を養成するということを考えるなら、そのような裾野の狭さを克服するために何らかの手段を講ずる必要があるだろう。
 文科系の研究組織においては、まだまだ一人一台のパソコンの支給というところにまでは行っていないところが多い。パソコンを共用している場合、POPメーラを使ってメールの読み書きをしてしまうことには問題が多いため、筆者の組織では基本的に大学院生はtelnetを利用してサーバ内でメールをやりとりするという形を取っている。また、一部のパソコンをPC-UNIX化することによって、コンソール上からWindowsシステムを利用してGUIでメールの読み書きができるようにもしている。それでも、多くの場合、メールの読み書きをするための特殊な操作体系という以上の認識にはならない場合が多いが、こういった状況を続けていくことによって、UNIXに触れる機会を作っていくことは一つの解決につながるかもしれない。

 パソコンの利用者が多いということは、サポートすべき環境が非常に多岐にわたるということをも意味する。文科系においてはパソコンに詳しい人は決して多くはなく、さらに、パソコンのLAN技術については全く知識を持ってないという場合が多い。パソコン利用者のユーザサポートまでも管理者の作業の一環となってしまうことも十分にあり得る。実際、筆者がネットワークの設定を行ったパソコン端末は全体の8割にのぼり、トラブルシューティングをも含めるならすべてのパソコン端末に関わったことになる。パソコンの設定くらいは業者に頼めばいいと思われがちだが、IPアドレスも発行されていない端末を前にして「ケーブルをLANにつなげば使えるようになります」と言い残して帰ってしまう業者もおり、注意が必要である。
 パソコン端末のサポートまでも行う場合、DOS, Windows3.1, Windows95, WindowsNT、そしてMacOSといった様々な環境を設定し、それらに対してトラブルシューティングを行っていくことになる。それぞれのOSに対応するアプリケーションはネットワーク関連だけでもかなりの種類になる。問題の切り分けを適切に行うためにはそれぞれのOS、そしてアプリケーションの設定やバグの情報を一通り網羅しておかねばならない。さらに、パソコンOSにおいては、ソフトウェア同士の競合という非常にローカルかつやっかいな問題がしばしば障害の原因となる。また、パソコンOSやそのアプリケーション群は次々とバージョンアップし機能拡張を重ねていき、同時にその過程で多くのバグや相性の問題を引き起こしていく。それらをフォローしていくのは並大抵のことではない。
 そういった個々の環境に固有の情報を一通り網羅しておくには、ユーザのサポートのみを目的とした多大な自己犠牲的な労力が必要とされる。ネットワーク用アプリケーションを統一することによってある程度トラブルシューティングにかかる手間を省略することは可能だが、古くからのパソコンユーザには特定のアプリケーションに愛着を持っている場合もあり、なかなか一筋縄ではいかない。
 この問題は、ユーザ教育によって、ネットワーク管理者とは別にパソコンのネットワーク技術についてある程度の知識を持ったユーザを養成していくことで解決するしかないだろう。

 文科系の研究者はそれぞれに自らの専門領域を持ち、その中で研究を行っている。そして、それは時折、インターネットをツールとして利用することに関連してくる場合もないわけではない。しかし、それはあくまでもユーザとしての利用であり、管理者としてネットワークに関わっていくことが自らの研究内容と関係してくるような文科系の研究者というのはなかなかいない。
 また、コンピュータやネットワークに対するある程度の見識という意味での裾野の狭さはネットワーク管理者への適切な評価を困難なものにすることがある。こうした状況においては、研究に使うべき時間をひたすら浪費しながらも管理作業が評価されず、むしろそれによって圧迫を受ける研究成果の低さの方が問題とされるということさえあり得る。この問題は、ネットワーク管理から文科系研究者の足を遠のかせる要因になっていると思われる。
 ネットワーク管理が研究に直接つながらない片手間作業として行われるという場合には、それが何らかの形できちんと評価されるようなシステムが早急に確立される必要がある。大学によっては、文科系でも学部単位で専門のポストを用意したり、ボランティアの大学院生をTAや研究助手にするといった形でフォローしているところもある。

2.2 ネットワーク管理を外注する際の問題点
 ネットワーク管理を文科系研究者の研究内容と関連づけるのは非常に難しい。研究との兼ね合いを考えた場合には、ネットワーク管理を外注することは本来ネットワーク管理を前提としない文科系の研究組織においては当然考えられるべき選択肢の一つだろう。
 しかし、これを業者に依頼するのは通常の文科系研究組織においてはほとんど不可能である。それなりの信頼性を持ったネットワーク管理を行っていくことのできる専門の業者に外注するには相応の予算が必要である。そして、文科系の研究組織が独自にそれを負担するのはほとんどの場合可能ではない。外注すると言っても理工系の学生をアルバイトで雇うというのが現実的な方策だろう。
 外注したからといって全て任せきりにするのは好ましいことではない。少なくとも管理者の作業内容とネットワークの現状を大まかに把握できる程度の技術や知識を持った人材はそれとは別に(すなわち内部に)必要となってくるだろう。なぜなら、ネットワーク管理を行っていくにあたって管理者としての資格が必ずしも必要とされず、維持すべき信頼性のレベルについても具体的なガイドラインが存在しないという現状にあっては、信頼性のあるネットワークの維持管理や依頼者側の意図が必ずしも適切に実現されるとは限らないからである。従って、管理者が行っている作業や提供しているサービスがどのようなものであり、かつ、それらのサービスがどの程度のリスクをユーザに要求しているのかということについての知識を持った人材が、文科系組織の中でも必要とされることになってくるだろう。

3 意思決定における問題
 これまでは、文科系研究組織においてネットワーク管理をするにあたっての管理者の問題について検討してきた。文科系の研究者自身が管理作業を行っていくということも、困難ではあるが不可能ではないという状況にあると言っていいだろう。  しかし、ネットワーク管理において重要なのは技術面だけではない。技術面をどうするかに関わらず、ネットワーク管理の主体となるにあたってどうしても避けられないことがある。それは、管理運営方針における意思決定である。
 一定の信頼性を確保した上でネットワークを維持していこうという場合、ある程度の出費が必要となる。すなわち、組織の予算を決定する過程で、どこにどの程度予算をかけるかという決定をなさねばならないのであり、それを行うのは他ならぬ文科系研究者自身の手によってなのである。ここにおいては、意思決定の段階で、その決定がどのような意味を持ち、今後のネットワーク運営にどの程度の影響を及ぼしていくのかということに対する見識が必要とされることになるだろう。信頼性のあるシステムの維持管理と、利便性を追求した拡張との間にある差違を理解した上で、最低限、ネットワークの信頼性の維持に必要な部分にはきちんと予算を配分する、という判断が必要になる。それができない組織においてはネットワークそのものが非常に危険な状態に曝される可能性がある。組織内に一人もしくは数人の技術者が確保できたとしても、意思決定機関において適切な判断がなされないという状況では適切なネットワークの運用は困難だろう。それどころか、良識的なネットワーク管理者に多大な負担を強いることにもなりかねない。
 このような問題を回避していくには、たとえ文科系研究者の組織であったとしても、最終的な意思決定に携わる人々においてネットワークに対するある程度の見識が必要になる。
4 まとめ
 文科系研究組織におけるネットワーク整備は、ネットワーク管理の問題を抜きにしては語れない。今回は、文科系研究者の手によってネットワーク管理を独自に行っていく場合の可能性と問題点について、日頃ネットワーク管理をしている中で得た経験を元にまとめてみた。
 技術的な側面においては必ずしも不可能ではなく、ネットワーク管理に関する情報を適切に収集・検索することができたなら、文科系の研究者の手でもある程度まで管理をやっていくことが可能である。
 しかしながら、そのような情報の収集・検索にあたってもコンピュータに対するある程度の予備知識は必要であり、その点で文科系の研究者があまり芳しくない状態にあることは間違いない。また、文科系の研究者としての研究内容がネットワーク管理に結びつく場合が極めて少ない。外注するとしても内部に理解者がいない場合には混乱を招く可能性がある。さらに、予算措置をはじめとする組織としての意思決定においてネットワークに関するある程度の知識や理解が必要になってくる。
 これらの問題点の解決には、文科系研究者個々人が積極的にネットワークに参与していこうという意識を持つことが必要になるだろう。それによってネットワーク管理の問題にある程度の見通しがつくことになれば、文科系におけるネットワーク環境の整備はより一層進展することになり、ネットワーク環境の充実化はネットワークの有効性をより強く認識させることにつながる。さらにそれが恒常的な利用者の増加をもたらすなら、ネットワークの利用価値はより一層高まっていくことだろう。
 文科系におけるネットワークの積極的活用は、文科系研究者にとってのネットワークの利用価値を独自に見出していくことにつながる可能性もある。それによって、さらにネットワークの必要性が高まり、さらなる環境の充実をもたらすことになるかもしれない。この点についてはまた別の機会に論じることにしたい。
参考文献:
後藤斉[1997]  : 「人文学研究とインターネット」『人文学と情報処理』15, pp. 9-14.
中村素典[1998] : 「ネットワーク管理者の役割と養成について」『電子情報通信学会技術研究報告』97(607), pp. 1-6. 

 なお、本稿作成にあたり、後藤斉先生、浦田卓治氏、相場徹氏、山根信二氏に有益な助言をいただいたことを感謝します。