『電脳処理 西夏文字字素分析』
解 説


 西夏文字はその美しい四角形の外観を見る限り、漢字をヒントに作られたものであることは確かである。しかし、『宋史』巻485、列伝第244、13995頁にも、
「元昊(西夏王国を建てた祖)、自ら蕃書(西夏語の書物)を制し、野利仁栄に命じて(元昊は何と、この書物の編纂を、建国前に命じている)、これを演繹せしめ、十二巻と成す。字(西夏文字)は、形体、方整(真四角に整い)にして、八分(隷書に類するが、挑法があって楷体に近い書体)に類すれども、画くに頗る重複あり。」
とあるように、字形は大変に複雑である。

 西夏語で書かれた字典である『文海』には、字形の反切(Aの文字=Bの文字の左+Cの文字の右のような解説)がつけれらているが、それを見ても、元となる基本の西夏文字が作られたのち、自然発生的ではなく、人工的に派生させ、短期間のうちに西夏文字およそ6千を完成させていった過程が察せられる。

 漢字が扁旁、画数などで分類されるように、西夏文字もこれまでの漢字の分類と同じような方法で分析しようという試みが、これまで多くの西夏語学者によってなされてきた。ソフロノフ教授、西田龍雄教授、史金波教授、李範文教授。これらの研究者は、皆そのように分析した。ソフロノフ教授は基本的に上から下に、また左から右にと検索順位を設定した部首の分類を行っている。西田龍雄教授は字素にコード番号を施し、字素と字素との組み合わせによる文字全体の分析を行っている。史金波教授は画数による部首の分類を施したのち、その内部も画数で分類している。李範文教授は四角号碼の考え方を用いた分類を行っている。

 これまでの学者は程度の差こそあれ、あくまでも漢字の扁旁に、あるいはこれまた漢字の分類法の一つである四角号碼に、あるいは画数にこだわった。これに対し、今回われわれは、西夏語と同系である、チベット語の文字を手がかりにするという全く新しい発想によって、すべての西夏文字をとことん抽象的に、とことんデザイン的にとらえたようと試みたのである。

 以下では、西夏文字の特徴を解説しながら、このわれわれのはじめて提起する分析方法が果たして有効かどうか、諸賢のご判断を仰ぐべく、ここにご紹介したいと思う。

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