ばったり読書ノート

以下,最近読んだ本(主に言語学以外,いきあたり「ばったり」)の読書ノートです。きちんとした批評というよりは,何が書いてあったか,個人的なメモとして書いていますので,悪しからず。(そんなもの公開するな,と叱られそうですが,案外出先での話題に重宝するものですから。)並べてみると,文庫や新書を電車の中で読むくらいしか,読書の時間が残されていないという厳しい現実を再認識します。

鹿島茂 2003. 『勝つための論文の書き方』 文春新書 295, 文藝春秋.
「何に勝つか」は,読んでのお楽しみ。「人生に」かな?近年の論文の書き方(プレゼンテーションの考え方)の本としては,一番のお勧めです。勉強になりました。
ワトソン 2005. 『DNA』 ブルーバックス B1472, B1473, 講談社.
DNAモデル提唱者の一人,ワトソン自身による著作は,分かりやすいです。
武村正春 2005. 『DNA複製の謎に迫る』 ブルーバックス B1477, 講談社.
DNA, DNA ポリメラーゼの現在進行中の研究についての分かりやすい紹介です。
Sneath and Sokal 1994. 『数理分類学』. [西田英郎・佐藤嗣二共訳]内田老鶴圃..
生物の分類における数理分類学の基本文献です。私には基本的な考え方以外は理解できませんが,言語類型論あるいは比較言語学との対比を考えると,興味深いものがあります。
野矢茂樹 2002. 『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』 哲学書房.
ウィトゲンシュタインと格闘する野矢先生。きちんと読む,明確に書く,ともに大変な仕事です。
福澤一吉 2002. 『議論のレッスン』 生活人新書 025, NHK出版.
トゥールミンの議論モデルの紹介,パラグラフライティングなど,きちんとした議論,明快な論文執筆には必須のものですが,言うは,あるいは理解するは易く,行うは難しで,本当に実践するためには,議論してみて,書いてみては反省し,の繰り返しです。言語学的には語用論の応用課題としても興味深いものです。
杉山幸丸 2004. 『崖っぷち弱小大学物語』 中公新書ラクレ 152.
高等教育の行く末を考えるのに,大変有益でした。 学識があるだけでなく,人間社会,教育の方向性を考えることができ,かつコミュニケーション力のある筆者は,(本人の好む,好まざるに関わらず,)いずれどこかの学長になるべき人物なのでしょう。
岡田英弘 2004. 『中国文明の歴史』. 講談社現代新書 Y740.
東京外大(AA研)名誉教授の岡田さんの本です。(AA研では大学者も助手も「さん」づけが伝統です。)「漢民族」の成立,書記伝達体系としての「中国語文語」など,示唆的であるとともに,大きな問題提起の書ですが,中国語(特に音韻学)や東洋史の研究者のご意見は如何?言語類型論において,孤立語を論じるのに,古典中国語を例に取るのは大変に危ないようです。「漢民族の成立」論は,故橋本萬太郎さん(これも元AA研教授)の東アジアの言語類型地理論の言語変化のモデルとも呼応するものです。
 
レナード ムロディナウ 『ファインマンさん 最後の授業』. [安平文子訳], メディアファクトリー, 2003.
私はこういう人,好きだなあ。物理の内容までは私にはわかりませんが,「4つの力がある,それだけだ」,として要素還元主義に抗っているように見える彼は,物理学史全体の流れにおいては,最終的に論破されてしまうのかもしれませんが,そこに彼の自然現象への洞察力と畏敬の念を見て取ってしまうのは,東洋人の感傷でしょうか。言語を数少ない原理に還元したいという野心を現代言語学者は持っているのですが,(恥ずかしながら私もそう,多様な現実が数少ない原理に還元できるという驚きが,多くの研究の出発点ですから),一方で,現実言語の多様性への敬意を忘れたくないものです。
 
(以下2004年以前)
内田樹(たつる) 2002. 『寝ながら学べる構造主義』.
「構造主義」について,要領よくまとめられています。言語学者は構造主義を狭い文脈で捉える傾向があるので,参考になります。
岩井克人 1998. 『貨幣論』.
構造主義的な「価値」を理解するには,お金の例が分かりやすいので,たいへん参考になります。