『神像絵姿集成』(devataacitrasangraha)は、『神像建立儀礼様相精髄集成』(pratiSThaalakSaNasaarasamuccaya)という作品の一部として、ネパールのビール図書館に所蔵されていたもの(底本としたのは、ネパール王立印刷局1963年刊のもの)です。
『神像建立儀礼様相精髄集成』は、ヴァイローチャナというシヴァ教のマッタマユーラ僧院の系譜に属する人が著わした作品で、シヴァ教の立場から、神像建立儀礼の規定をまとめているものです。
ヴァイローチャナは、ゴーパーラ王の臣下の息子と自らについて述べているので、この王をベンガルのパーラ朝のゴーパーラ2世[10世紀半ば]と考えると西紀1000年頃の作品と考えることができますが、確証はなく、一応およそ11世紀頃においておき、今後更に内容の検討を進める必要があります。
『神像絵姿集成』は、『神像建立儀礼様相精髄集成』の第6章にある神像の様相を規定した記述にしたがって、実際に神々(devataa)の絵姿(citra)を描いてまとめた作品で、317葉の絵姿を含んでいます。
その内の最後の64葉が『デーヴィーバーガヴァタプラーナ』(女神に関する神話や儀礼をまとめた作品[11-12世紀頃])による64尊のヨーギニーを含んでいることからも、最初から同時に作られたわけではなく、『神像建立儀礼様相精髄集成』の成立後しばらくしてから作られたものと思われます。残っている写本の検討なしではなんともいえませんが、ヨーギニー信仰が盛んであった11〜14世紀頃のものではないかと推測されます。ヨーギニーは、言葉の意味としてはヨーガを行う女性を意味しますが、魔術的な力を持った存在として信仰を集め、カジュラホの64ヨーギニー寺院なども同じ頃のものとして有名です。
本来であれば、『神像建立儀礼様相精髄集成』の記述自体の翻訳を図像の下に解説としてつければ完全なものになったのですが、時間がないために、ここでは印刷本のとおりに持ち物などの名前を原語(サンスクリットを一般的な表記にしたもの)とやさしい和訳をつけてみました。『神像建立儀礼様相精髄集成』の原文に従った註記を加えたところはplssの表記があります。 (高島 淳)
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