<個人研究の課題と方法>

中東、とりわけシリア、レバノンを中心とする東アラブ地域の近代における社会変容の実態を、宗教・宗派集団間の関係の変化に注目して明らかにすることを目指しています。具体的には、シリアの中心都市の一つアレッポを対象に取り上げて、もっぱらキリスト教徒 諸派をとりまく社会関係の変化に焦点を当て、現地のオスマン帝国時代の歴史文書資料を直接調査することにより、未発掘の新たな情報を含む知見を提出すべく、研究してきました。この研究は、多元的社会における諸集団の平和的共存のあり方を追究する政治・社会学的関心に基づいており、エスニシティ研究あるいはマイノリティ研究に連続するものです。同時に、実証的歴史学の手法に依拠しながら、文字資料に記録された事実関係の展開の中に、現代につながる問題点と、現代の課題に取り組むうえで有効な要素とを見出そうとするものです。

 

<個人研究の経過と展開>

1989年のAA研への転任以来、計4年7ヶ月間(過去5年のうちでは計2年3ヶ月間)にわたって、シリアのダマスクス所在の歴史資料センターを中心に、トルコのイスタンブルの総理府文書局、フランスのパリとナントにある外務省外交資料局、イギリスのロンドン所在の公文書館などにおいて、オスマン語、アラビア語、仏・英語の一次資料の収集と分析に従事してきました。これらの調査により、一つの都市の社会変容を、現地の行政庁や法廷、首都の帝国政府、外国の外交団の3方向から分析することが可能になりました。その成果を、国際学会で発表を行いながら、英語論文の形で公表してゆく予定です。