1997年度第1回研究会

『東南アジアにおける人の移動と文化の創造』第1回研究会

1997年7月2日(水) AA研大会議室

 

 

「東南アジアの華人と中国」

Leo Suryadinata

(シンガポール国立大学)

 

東南アジアは華僑の80%が居住する地域である。華僑の動向や経済活動について、近年非常に関心が高まっているが、それを理解するには、中国本国の「華僑」に対する政策、そしてそれに対する東南アジアの「華僑」の反応について吟味する必要がある。

中国の伝統的な政策は国内統治であり、国外で活動する中国人に対する関心が生まれたのは清朝末期に過ぎない。その時代に至って、ようやく国籍に関する法律が制定された。この段階では、海外に居住する者もすべて「中国人」とみなした。つまり、中国人として生まれた者は終生中国人で有り続ける、というものである。

しばしば現地に同化した中国人は人民共和国に対して敵対的であったので、人民共和国は政策を変更せざるを得なかった。1980年には二重国籍を認めない国籍法が制定され、他国の国籍を持つ者は、もはや中国国籍を持たない、とされた。それによって、外国籍の華僑に対しては、もはや何ら干渉をし得ないこととなった。

東南アジア在住の華僑の、中国に対する態度として、Wang Gungwuは二つのタイプを示している。一つは中国の発展に熱心に貢献しようとする愛国主義者、そして他のタイプは、中国に帰化するタイプである。しかし、インドネシアの華僑を第三のタイプとして挙げることができるだろう。つまり、あくまで東南アジアに活動の基盤を据え、必ずしも中国に対する志向をもたない華僑である。とりわけ、現地社会との同化が進んだプラナカンは投資先として中国よりもベトナムやラオスを選ぶ。これは、ひとつには彼らがもはや中国語よりもインドネシア語で生活している、という事情が考えられる。

ことは非常に複雑であり、「中国」という概念は非常に広範かつ柔軟に用いられることから、ethnic nationとstate nationをはっきりと区別して議論する必要があろう。