Column008 :: Ishikawa Hiroki's HP

アッラーのご加護があらんことを!(ザンジバル、タンザニア)


 タンザニアの沖合に浮かぶザンジバル島での調査最終日、私は島の南部にある小さな村で焦っていた。どうやら島の中心地であるストーンタウンに向かうその日最後の乗り合いバスを逃したらしい……

 その村にはザンジバルで最も古いモスクがあるので、調査の最後に是非訪れたいと思っていた。

 出足は好調であった。ストーンタウンのバスの乗り場では、何人もの人びとが私がそのモスクに行けるよう親切にしてくれた。外国人の顔を見れば観光地へのツアーに誘って利ざやを稼ぐことしか頭にない連中にうんざりしていた私にとって、彼らの親切は心に染みた。

 モスクに到着すると、1人の老人が出迎えてくれた。私が歴史研究者であり、このモスクが歴史上重要であるため訪れたことを伝えると、老人は私がモスクに立ち入ることを快く認めてくれた。私はモスクの前の井戸の水で手足と顔を洗い、靴を脱いでからモスクへと入った。

 現在のモスクは18世紀に再建されたものであるが、内部の刻文からこのモスクが12世紀に建てられたものであることが知られている。由緒のあるモスクであるが、規模は小さい。中では2、3人の若者が昼の祈りを捧げていた。私はモスクの片隅に座り、この地に初めてイスラームを伝えた人びと、またその後のこの地の歴史に思いを馳せた。

 かなりの時間モスクの中で過ごした後、老人に礼を言い、重要なモスクを訪れることができて感動したと伝えると、老人は満足そうにうなずいた。いくばくかの喜捨をした後、私はモスクを出て近くの海辺にあった小さなレストランで冷たいものを飲むことにした。最近この村はイルカ・ウォッチングを中心としたリゾート地となっており、さすがに海辺の景色は美しい。ウェイターの青年は私がモスクを訪れるためにこの村を訪れたことを知ると大変喜び、付近の史跡や帰りの乗り合いバスの時間などを親切に教えてくれた。

 一服すると、私はウェイターが手配してくれた彼の友人のバイクに乗って最寄の史跡を訪れた。その後、私は乗り合いバスが通るという場所に向かった。しかし予定の時間が過ぎてもなかなかバスは来ない。地元の少年に聞くと、その日の最終便は通常より早く出発してしまったらしい。辺鄙な村であるため普通のタクシーも通らない。

 少年が村にいるタクシードライバーを知っているというので連れてきてもらうと、そのドライバーは法外な値段を要求してきた。彼と押し問答をしていると、もう1台のタクシーが通りかかった。運転していたのは若いドライバーであった。彼にストーンタウンまでの値段を尋ねると、何のためらいもなく、地元の人々を乗せるときと同じ値段を口にした。

 彼のタクシーに乗せてもらい、私は無事にストーンタウンにたどりつくことができた。運賃を渡す際に「本当にこれでいいの?」と尋ねると、彼は「もちろん」と当然のように言った。私は礼を言ってから「あなたにアッラーのご加護がありますように」と心から言った。彼はにこっと笑い、走り去っていった。彼に払った金額は「法外な値段」の30分の1であった。

 ザンジバルの心豊かで正直な人びとすべてにアッラーのご加護があらんことを!

2011年6月3日



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キジムカジ・モスクの説明版

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