Column007 :: Ishikawa Hiroki's HP

より明確に、より鮮やかに ~デュフィの絵画に研究を思う~


 ラウル・デュフィ(1877~1953年)

 野獣派に分類される、近代フランス絵画を代表する画家。音楽、海、薔薇などをモチーフとして鮮やかで透明感のある絵画を多数残した。私の好きな画家の1人である。

 いつ頃から好きになったのかをふと知りたくなって、「大学院の修士課程に進んだ頃にはすでに好きだったな」「渋谷のBunkamuraで展覧会を見た記憶があるな」と記憶をたどりつつ調べてみた。すると確かに1994年の秋に「ラウル・デュフィ展 海と音楽─そしてパリの情景」という展覧会がBunkamuraで開催されていた。大学2年生の秋に見たということになる。

 この展覧会を訪れて私はデュフィの絵画に一目惚れし、毎年デュフィの絵画のカレンダーを用いるようになった。しばらくはBunkamuraのショップで購入できたものの、数年前からなぜか販売されなくなったため、最近では年末になるとフランスの書店から(フランスに在庫がない場合にはイギリスなどから)取り寄せている。それも研究室用と自宅用に2つ。自分でも物好きだと思う。

 デュフィの絵画については、明確で軽やかな線と透明感があって鮮やかな色彩が見る者に悦びを与えるということがよく言われる。もちろん私もそうした彼の絵画の特徴に魅了されていることは確かである。しかし「自分がこれほどまでにデュフィの絵に惹かれる理由はそれだけではないだろう」と考えていたとき、自分が彼の絵の中に論文の理想の形を見出していることに気づいた。

 歴史学者を評価する基準はいろいろあるものの、やはりよい論文を執筆しているかどうかが最も重要な要素である。それでは「よい論文」とは何か。文章が高尚で難解であり、念入りに読み込んではじめてそのすばらしさが分かるような論文が存在することを私も否定しない。しかし私が理想とするのは、個々の文章も全体の論旨も明確でありつつ、内容の鮮やかさによって読む者を惹きつけるような論文である。

 論文の構想を練るとき、いつもデュフィの絵画が頭に浮かぶ。そして「より明確に、より鮮やかに。デュフィの絵画のような論文を書きたい」と思う。

2011年5月8日



110323001.jpg
研究室のカレンダー

bk2_top.gif

HOME > Columns > Column007