Column001 :: Ishikawa Hiroki's HP

高原で祝福を受ける(アクスム、エチオピア)


 紀元1世紀、エチオピア高原の北部にアクスム王国と呼ばれる王国が誕生した。この王国はインドと地中海世界を結ぶ東西海上交易の富で繁栄し、その版図はエチオピアやスーダンの内陸部、そして紅海対岸の南アラビアにまで及んだ。

 王国の都であったアクスムは標高2100mの高原に位置する。林立するオベリスク、一般に「シェバの女王の宮殿」として知られている宮殿、そして彼女が水浴したと伝えられている貯水池など数多くの遺跡が残るこの街はエチオピアにおいて有数の観光地となっている。世界遺産に指定されているのでご存知の方も多いであろう。

 アクスムの中心部から1時間ほど歩いた郊外の丘の上に、アッバ・パンタレウォン教会という小さな教会がひっそりとたたずんでいる。観光客が訪れることは滅多にないものの、この教会はエチオピア教会の聖人の1人であるアッバ・パンタレウォンによって創建されたという由緒を持つ。彼は5世紀にシリアなどからエチオピアに到来し、アクスム王国のキリスト教化に多大なる貢献をした9聖人の1人で、私にとってこの教会はぜひ訪れてみたい場所の1つであった。

 午後の強い日差しの中、ようやく教会にたどり着いた私を、司祭をはじめとする教会の人びとは歓迎し、熱心に教会内を案内してくれた。この教会がアクスム王国の成立以前に存在した先アクスム期の神殿の上に建てられたことを示す遺構、教会の敷地内から掘り出されたという先アクスム期の石碑、そして私が専門とするソロモン朝エチオピア王国期に描かれた教会内の壁画はいずれも貴重なものであり、大変興味深かった。

 人びとの親切に甘えて私はすっかり長居をしてしまい、お礼を言って帰ろうとする頃にはすっかり日が傾いていた。私がエチオピアの古語であるゲエズ語を学び、エチオピア史を研究していることを知った司祭は、帰ろうとする私に祝福を授けてくれた。高原の風を頬に感じながら聞く祝福の言葉は荘厳そのもので、乾いたこの地に確かにキリスト教信仰が根付いていることを思い出させてくれた。

2010年5月8日



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祝福を授けてくれた司祭

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