『平成12年度公開講座報告』
チベット語とチベットの伝統文化

星 泉

 

 平成12年9月から平成13年3月まで,AA研を会場として公開講座「チベット語とチベットの伝統文化」を行った。毎週金曜の夜7時から8時半まで,という夜間の講座である。金曜の夜にもかかわらず,社会人や大学生,大学院生など,チベットに関心を持つ熱心な方々にお越しいただき,毎回盛況であった。

 講座は全24回である。7か月間にわたる講座のうち,毎月1回はチベットの伝統文化を学ぶ講座とし,それ以外の回は中級チベット語講座を行った。語学講座はAA研所員の星が担当し,文化講座の講師はチベットから東京外国語大学に留学中のチベット人,タシツェリンさんにお願いした。

 まず講師のタシツェリンさんについて少しご紹介しておこう。チベット文化圏の東北部にあたるアムド地方出身で年齢は33歳,中国青海省の青海民族学院の講師である。大学でのご専門はチベット文学であるが,チベット人に対する日本語教育にも携わってこられた。編著書にチベット語版『ひょうじゅんにほんご』がある。

 そもそもこの公開講座を思い立ったのは,私がこの4月にタシツェリンさんと出会ったことがきっかけである。アムド地方のチベット人とじっくり話をするのが初めてだった私は,タシツェリンさんのお話を聞くにつれ,すっかりアムドの魅力にとりつかれてしまった。そのうち私だけがお話を独り占めにするのはもったいないと感じるようになり,当時私が個人的にやっていたチベット語クラスにお招きして,チベットの現代文学についてお話していただくことにした。出席者は8人ほどだったであろうか。現代文学のお話が面白かったのはもちろんであるが,何よりも素晴らしかったのは詩の朗読である。その場にいた全員の心を揺さぶる迫力であった。私はすぐさま,タシツェリンさんにお話をしていただく公開の場を作ろうと心に決めた。折りよくAA研では平成12年度の公開講座の実施を検討中であったため,私のチベット語講座とタシツェリンさんのお話を聞く講座を組み合わせて公開講座を行う計画を立て,今回実施の運びとすることができたのである。

 以下,文化講座,語学講座の順で簡単に報告する。

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<チベットの伝統文化を学ぶ講座>

 文化講座では,タシツェリンさんに,チベット文化の東の中心地であるアムド地方について,ことば,子供の誕生,結婚式,葬式,食文化,祭り,歌と踊りといった側面から,順を追ってお話いただいた。チベットの普通の人々の村の暮らしについてチベット人自身から話を聞くことのできる機会はなかなかなく,またチベットの中でもアムド地方の状況というと,日本ではなかなか情報を得る手段がないので,今回は有意義かつ貴重な時間を提供できたと思う。毎回たくさんの質問が出て,9時近くまで盛り上がることがしばしばであった。

 また,2月23日の講座「チベットの年中行事−6月のルロ祭を中心に−」では,カメラマンの浅井寿樹さんからルロ祭の貴重なスライドを多数お借りすることができ,スライド上映をしながらの楽しい時間とすることができた。浅井寿樹さんにはこの場を借りて御礼申し上げたい。

 タシツェリンさんはこの講座のために,毎回労を惜しまず準備をして下さった。ここに記して御礼申し上げる。一連のお話は,日本語とチベット語の両方で記録に残し,インターネット等で公開していく予定である。

<中級チベット語講座>

 チベット語既習者を対象にした,チベット語の現代文語が読みこなせるようになるための中級講座である。社会人,大学院生を中心に,毎回10名ほどの方々に参加していただいた。参加者のチベット語のレベルは様々であったが,色々な分野の知識,経験をお持ちの方々にお集まりいただいたことが功を奏し,単なる語学講座という枠には収まらない,活発な雰囲気の講座にすることができた。

 教材は2000年に発行されたチベット語の新聞記事を使った。内容はチベット事情に関する記事,中国,インド,アメリカ,ヨーロッパ,日本などの国際関連の記事が主である。短めのものを選び,毎回2本の記事を読み切るようにした。

 こうした類の教材は得てして読み捨てになりがちなので,それを避けるためにあらかじめ全ての記事を電子化し,読み終わった後も,日本語訳と単語集を電子化して残すことにした。これは,講座が一通り終了した後に,独習用教材として利用できるものに発展させるとのねらいもあってのことである。テキストの電子化には受講者の皆さんのご協力をいただいた。日本語訳と単語集作りは,毎回の翻訳発表の担当者にお願いし,発表後に提出していただいた。

 電子化テキストの受け渡しは,ほとんどの場合 e-mail を用いて行った。受講者の皆さんのご協力のおかげですべてをスムーズに運営することができた。現時点で32本の記事の電子化と日本語訳,単語集が完成している。これに文法説明のページを設ければ,不十分ながらも一つのまとまった独習用教材ができあがるであろう。今後はこれらの教材をインターネットで公開しつつ,紙媒体での出版も検討したいと考えている(現在、一部をインターネットで公開中)。

 チベット語の場合,このような中級語学講座が少ないこともあって,受講者の方々からは,是非続けてほしいという声が多く上がった。私としても自分自身の勉強にもなるので継続を検討している。すでに次回の講座の企画を練っているところで,一部ご紹介すると,チベットの小学校教科書を教材とした講座,また,カタログや観光パンフレットを読む講座などを計画中である。また,初級チベット語講座についても問い合わせが多いので,実施を検討中である。

 7か月という長丁場の公開講座を乗り切ることができたのは,受講者の皆様方のご協力と,AA研の所員諸氏と研究協力課の皆様方のご協力のおかげである。いちいちお名前は挙げないが,お世話になった方々にこの場を借りて御礼申し上げたい。

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