ゾンカの接尾辞の表記法について
星 泉
last updated 2002/11/17
本報告は,科学研究費補助金特定領域研究(A)(2)「古典学のための多言語文書処理システムの開発」(研究代表者:高島淳)に基づいて行ったブータンで使用されるチベット文字に関する調査報告である。
1. ゾンカの接尾辞のリスト
"Dzongkha-English Dictionary"(pp.295-296)では,ゾンカの接尾辞の表記法において注意しなければならないものとして,p, m, w, po, bu, mo, n, niを挙げている。これに従って筆者が辞書や新聞等から用例を採取し,下記に主なものを挙げた。
p |
'jim bzop |
g-yogp |
rdzogsp |
bshadp |
yodp |
lhodp |
gsarp |
phorp |
sbalp |
m |
'ongm |
lcangm |
rgodm |
inm |
nyinm |
skarm |
gtorm |
sderm |
gzhalm |
chosp |
w |
'draw |
bltaw |
khaw |
chew |
phow |
'badw |
'gorw |
'khrilw |
po |
rgapo |
dkarpo |
bu |
dibu |
mo |
bumo |
lhamo |
n |
yodn |
ni |
thobni |
これらの全てについての発音は未確認だが,p, m, wについては,接尾辞が末子音として発音され,直前の子音は省略されて発音されないようである。
これらのローマ字転写はどのように記すべきか,指針が必要である。これについては次の2.で検討する。
2. チベット語正書法とゾンカ正書法の対比と転写方法について
ゾンカ正書法とチベット語正書法を対比すると下記のようになる。接尾辞はそれぞれ同源であるが,チベット語では接尾辞が一つの独立した音節であるのに対し,ゾンカの場合は接尾辞の母音が落ち,残った子音が直前の音節の末子音になっている。綴り字の上では母音が落ちていないものもあるが,この発音については未確認である。
チベット語正書法 |
ゾンカ正書法 |
CTSA |
転写試案1 |
転写試案2 |
転写試案3 |
|
 |
 |
p'orapa |
p'or-p |
p'orpa |
p'orp |
cup, bowl |
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 |
xjima^bazopa |
xjim^bzo-p |
xjim^bzopa |
xjim^bzop |
sculptor |
 |
 |
p'ova |
p'o-v |
p'ova |
p'ov |
stomach |
 |
 |
skarama |
skar-m |
skarma |
skarm |
star |
 |
 |
qama^cuGama |
qam^cuG-m |
qam^cuGma |
qam^cuGm |
step mother |
 |
 |
dakarapo |
dkar-po |
dkarpo |
dkar-po |
white |
 |
 |
yodana |
yod-n |
yod-n |
yodn |
|
これらの転写方法について考える際に,チベット語の転写方法について整理してみよう。チベット語の転写の場合,助詞や指小辞などを付加する場合,歴史的に母音がaであったもの?については子音要素のみを付加し,母音がa以外であったものについては子音要素と母音要素の両方を付加している。例を挙げる。
a)子音要素のみを付加するケース
nga(私)--> ngar(私に)
nga(私)--> ngas(私が)
b)子音要素と母音要素の両方を付加するケース
nga(私)--> nga'i(私の)
rta(馬)--> rte'u(仔馬)
ゾンカにも上記a)b)と全く同じケースがあり,同じ正書法で書かれる。ゾンカの接尾辞のケースもこの2つと同様の正書法が適用して良いと考えられる。
a')子音要素のみを付加するケース
yod(ある)--> yodp(あること?)
in(である)--> inm(であること?)
che(大きい)--> chew(大きいこと?)
b')子音要素と母音要素の両方を付加するケース
bu(男の子)--> bumo(女の子)
thob(?)--> thobni(?)
a)とa'),b)とb')はそれぞれ類似したケースと考えられるので,正書法も
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スロット数は5にまで増える可能性がある。
xk'ruGs^xk'ruGs^ma
xk'ruGs^xk'ruGsm
言語コードによる制御を行わない場合:インドの文字と同様,音節文字として扱う
例)
チベット語 skara^ma
ゾンカ skarama
サンスクリット karma
例)
チベット語 xak'ruGasa^xak'ruGasa^ma
ゾンカ xak'ruGasa^xak'ruGasama
言語コードによる制御を行う場合:チベット,ゾンカ,サンスクリットのルールを作る
例)
チベット語 \tb skar^ma
ゾンカ \dz skarm
サンスクリット \sk karma
例)
チベット語 xk'ruGs^xk'ruGs^ma
ゾンカ xk'ruGs^xk'ruGsm
※この問題は,敦煌出土チベット語文献の転写表記の問題とも共通している。
同じチベット語であっても,現代の表記法と古代の表記法とでは相違点があり,同じ転写法を適用することはできない。
例)
古代チベット語 bkaxs /bakaxasa (CTSA)
現代チベット語 bkas /bakasa (CTSA)
古代チベット語用の言語コードを作るか?
例)
古代チベット語 \ot bkagste
現代チベット語 \mt bkags te
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