科学研究費補助金 研究課題(基盤B 海外)
中国・ASEAN地域協力構想におけるベトナムの定位に関する研究(課題番号:20401006)


研究の概要

(1)背景と目的

(2)研究期間内に明らかにすべき課題

(3)研究計画の概観


(1)背景と目的

ベトナムは中国とASEAN諸国との結節点として,中国・ASEAN間地域協力構想においても重要な位置を占めている。その中で,中国とベトナムは2004年に「二回廊一経済圏」(昆明=ラオカイ=ハノイ=ハイフォン回廊,南寧=ランソン=ハノイ=ハイフォン回廊,環トンキン湾経済圏)建設で合意をみており[『人民日報』2004年10月9日],ここに両国は地域協力を基礎とした共同発展の時代を迎えたかのようにみえた。しかし,その後現在に至るまで「二回廊一経済圏」に大きな進展はみられず,「二回廊一経済圏」を中国・ASEAN地域協力の中核に位置づけ,その実現を急ごうとする中国と,より時間をかけて慎重に対処しようとするベトナムとの姿勢の差が顕在化しつつある。このような中越間の地域協力をめぐる温度差に着目しながら,ベトナムが隣接する大国である中国からの攻勢を前にして,政治的対等性の確保とASEANの一員としての立場からの経済協力推進という二つの課題をいかにして両立させながら,中国・ASEAN諸国間の結節点としての定位を設定しようとしているのかを明らかにするのが,研究の全体構想である。本研究は特に「二回廊一経済圏」建設構想の停滞状況を中心に据え,そこにベトナム側の上記二課題の追求がいかに投影されているのか,現地調査を通じて究明することを目的としている。
 2004年以降,現在に至るまで「二回廊一経済圏」構想に目立った進展がない背景として,同構想が貿易面を中心にベトナムにメリットをもたらす可能性が小さいという点がベトナム側から指摘されている[Vien Khoa hoc xa hoi Viet Nam-Uy ban nhan dan Thanh pho Hai Phong, Phat trien hai hanh lang, mot vanh dai kinh te Viet-Trung trong khuon kho hop tac ASEAN – Trung Quoc, Ha Noi, 7/2007, tr.238-245]。一方,中国は2007年末までに南寧・昆明と中越国境地帯を結ぶ高速道路網を完成させるほか,「二回廊一経済圏」構想を中国・ASEAN地域協力の中に組み込むことによって前者の実現を加速化しようとする戦略を提示している。これは「一軸二翼」あるいは「M型戦略」とよばれるものであり,南寧・シンガポール回廊を基軸にメコン流域圏地域経済協力と汎トンキン湾経済協力を結合させることを骨子としたものであり,広西壮族自治区政府が提起したものである[《新华社记者看M战略》新华出版社,北京,2006年]。さらに2010年は汎トンキン湾経済協力の第1段階から第2段階への移行点,すなわち市場開放から貿易自由化への移行点と位置づけられている[《泛北部湾经济合作可行性研究报告》中国-东盟商务理事会,2007年6月12日]。他方,ベトナム側は2020年までの中越国境地帯開発計画が中央政府によって承認された段階にあり(2007年8月),構想実現ペースをめぐる両国間の認識の差も明らかになってきている。いずれにせよ,今後数年間に「二回廊一経済圏」建設実現か修正かの方向性が明確になることが十分に予想されるため,この機会を逸することなく,早急に現地調査を実施することが必要となっている。

(2)研究期間内に明らかにすべき課題

中越間二回廊一経済圏」構想の停滞状況を,ベトナム中央政府による経済発展と政治的対等性の調和を追求するための再編過程と把握し,①「二回廊一経済圏」関係地方政府(特にラオカイ,ランソン,カオバン,クアンニン,ハイフォン)による地域開発要求への中央政府の対処,②中国・ASEAN地域協力構想(「一軸二翼」戦略)に対するベトナム中央政府・地方政府それぞれの反応,③両国車両の越境通行許可範囲の設定状況,④中越国境地帯に対するベトナム国防省の関与,とりわけ国防経済区の果たす役割,の各点に集中して,ベトナム中央政府による上記の課題の追求がどのように反映されているのかを,中央官庁・地方政府関係者との面談や関連資料収集を通じて明らかにする。
 さらにベトナムにおける調査の精度と客観性を高めるため,二回廊一経済圏」の中国側で重要な位置を占める地方政府(雲南では紅河自治州,文山自治州,昆明市,開遠市など,広西では自治区政府,南寧市,北海市,防城港市,憑祥市など)の担当者とも面談し,ベトナムの中央政府・地方政府との協力関係を中心に調査を行う。


(3)調査研究計画の概観(申請書段階)

年度  調査地域 
 2008(平成20)  南寧=ランソン=ハノイ=ハイフォン回廊
 2009(平成21)  昆明=ラオカイ=ハノイ=ハイフォン回廊
 2010(平成22)  環トンキン湾経済圏
 2011(平成23)  補充調査と成果のとりまとめ