科学研究費補助金 研究課題(基盤B 海外)
中国・ASEAN地域協力構想におけるベトナムの定位に関する研究(課題番号:20401006)


年度計画と実績


1.2008(平成20)年度

2.2009(平成21)年度

3.2010(平成22)年度

4.2011(平成23)年度


1.2008(平成20)年度

(1)計画

本年度の調査は,気象条件によるリスクを分散するため,夏季(8月)と冬季(12月)に分けて実施する(全行程は合計20日)。調査地域は大きく,石井明と加藤弘之が南寧・ハノイ回廊の中国側部分(南寧・防城港地区)を担当し,白石昌也,竹内郁雄がそのベトナム側部分(ハノイ・ランソン・カオバン)を担当する。
ベトナム社会科学院中国研究所の協力を得て,ハノイとランソン,カオバンでは白石,竹内が分担して中央官庁(交通運輸省,計画投資省,貿易省など)及びランソン省・カオバン省人民委員会(省政府)指導者と面談して,以下の諸点を中心に調査を行い,関連資料の収集にあたる。

①回廊建設の進展状況
②中越国境地帯への国防省の関与と国防経済区の具体的内容
③地方政府による回廊建設への提案
④中央政府による政治的対等性の追求
⑤ベトナムによる「一軸二翼」戦略の受け止め方
 
 石井と加藤は南寧に赴き,「二回廊一経済圏」建設計画に関して積極的な提言と研究を行っている古小松・広西社会科学院東南亜研究所所長と意見交換を行う他,同氏の協力の下に自治区政府関連部門を訪問し,下記の点に関して調査ならびに関連資料の収集を行う。

①回廊建設に際してのベトナム側(中央政府・地方政府)との協力関係の実態や問題点
②「一軸二翼」戦略(中国・ASEAN地域協力構想)の進行状況
 
 なお,栗原浩英は上記ベトナム・中国双方での調査に参加し,研究全体を総括する。
 2回の調査終了後にはいずれも東京でメンバー全員(研究代表者・研究分担者・連携研究者・研究協力者)参加の下で,国内研究会を開催し,調査結果を総括する。その際,メコン流域圏(GMS)南北経済回廊という形で二回廊建設計画にも融資を行っているアジア開発銀行関連機関や,調査対象において一致点のあるアジア経済研究所などとも緊密な連絡をとって国内研究会への参加を要請して,情報交換に努める。

(2)実績

【年度報告に照らして】

 本年度は8月に石井と栗原がハノイ=南寧回廊通過地域,具体的にはハノイ,ランソン,南寧において調査研究を行った。12月には計画を前倒しして,石井,栗原,加藤,白石が環トンキン湾(北部湾)経済回廊地域の一部分,ハイフォン,ハロン,モンカイ,防城港市において調査を行った。
 本年度に面会した研究者や行政担当者ならびに訪問した機関は次の通りである。

・ベトナム社会科学院中国研究所所長ドー・ティエン・サム
・ベトナム計画投資省発展戦略研究所副所長 グエン・バー・アン
・ランソン省対外局長 ハー・ホン
・ハイフォン市通商産業局
・ハロン市通商産業局
・モンカイ市人民委員会主席(市長)
・東興市副市長
・広西社会科学院東南亜研究所所長 古小松 同副所長 農立夫

 本年度の調査研究を通じて,次のような点が明らかになった。
①インフラ整備に関しては,中国の発展が著しく,急速に進んでいる。2008年中に昆明・河口間の高速道路が完成する予定である。文山高速道路建設計画もある。鉄道に関しては昆明―蒙自―河口間に新線を建設中である。また,蒙自・開遠・弥勒地域は鉱物資源加工工業センターと位置づけられている。これに対して,ベトナム側では二回廊プロジェクトは優先された位置づけになっていない。とりあえず,ハノイ・ラオカイ間の高速道路建設など交通整備が進められている。ハノイ・ラオカイ間の高速道路建設はADBの融資(10億ドル)を受けて2011~12年頃に完成予定である。鉄道拡幅にはベトナム側も同意している。2012年には改修を終える予定である(ラオカイ・ハイフォン間)。南寧・ハイフォン間,バクニン・ランソン間,ハロン・モンカイの道路建設計画に関しては,広西企業の投資誘致が進められている。
②ベトナムと中国で経済回廊に関する概念が共有されていない。ベトナム側は二回廊通過地域,とりわけ国境地帯各省の経済発展を重視している。ランソン省のような地方政府も,回廊建設に伴う自省の経済発展の可能性を最も重視している。これに対し,中国(広西)側には「一軸二翼」戦略が示すように,ベトナムをASEAN諸国への入口・通過地点と位置づける発想が強い。両国間では東シナ海問題が存在しているため,ベトナムは長期的には一軸二翼に反対しないが,まずは二回廊一経済圏の実現に努力するという慎重な姿勢をとっている。
③両国間には国境地帯に限定された開発計画から広域的な開発計画に至るまで次元の異なる計画が重層的に存在している。ベトナム側が国境経済区など地域的に限定された計画を重視するのに対し,中国側は「一軸二翼」のような広域的な開発戦略に関心をもっている。
④両国間で協調しながら「二回廊一経済圏」を建設するメカニズムが存在していない。中国(広西)側で単独に「広西北部湾経済区計画」が進んでいることはその例証である。
⑤中国側では,ASEANへの入口としての地位を確保したい広西壮族自治区政府と,特別扱いしたくない中央政府との間で確執が存在する。
⑥両国間での車両(自動車,トラック)の相互乗り入れ範囲に関しては,本年度も進展がみられなかった。しかし,鉄道に関しては2009年1月からは南寧・ハノイ間直通列車(標準軌)の運行が開始された。これにより,中国の列車(標準軌)がハノイ手前のザラム駅まで進入してくることになった。12月に栗原が行った予備調査によれば,中国の貨車はラオカイ方面,ドンダン方面から,ハノイ手前のイエンヴィエン駅まで進入してきていることが判明した。1990年頃から中国の貨車の乗入れが再開されたというが,これに関しては来年度にあらためて調査をしたい。

 他方,ハロンやモンカイなどベトナム北部沿海地方では中国人(商人や観光客),中国資本(ホテルなど)のプレゼンスは1990年代に比較して高まっている。また2008年12月には陸上国境の境界碑設置が終了したり,前述したように2009年1月から南寧・ハノイ間直通列車の運行が開始されたりするなど,国境地帯の安定と相互往来は着実に進んでいる。

 なお,10月31日には,アジア経済研究所のGMS研究班と合同で「メコン地域開発研究:経済回廊の新展開」をテーマに研究会(東京・ジェトロ会館)を組織し,栗原が「中越国境地帯の現状」と題して報告を行い,アジア経済研究所のメンバーと中国・ラオス国境,中国・ミャンマー国境との比較検討を行った。

 以上,年度計画とは別に,調査の過程で「二回廊一経済圏」の形成過程に関するベトナム側の関係者と中国側の関係者の認識が微妙に異なることも明らかになった。ベトナム側では,基本的にベトナムが二回廊を提起したが,北部湾経済圏は中国の要望によって付加されたものであるとしているのに対し,中国側ではベトナム政府が提起し,中国政府がそれに応えたという認識が一般的である。
 また,栗原はモスクワでの文献資料調査(本研究課題とは無関係)を通じて,中越関の経済関係は,最近ハード面で近代化が進んできているのは確かであろうが,貿易構造,貿易品目や交通(車両乗入れ)などその本質的な部分は1950年代からさほど変化していないのではないかとの仮説をうるに至った。

【補足情報】

防城港に注目する必要あり

【参考資料:重層化する開発計画】

★憑祥・ランソン跨境経済合作区構想

★中国・ASEAN憑祥国境総合保税区構想(広西)

①税関第二ライン監査を坤営山と浦木山の間に設定する。
②憑祥総合保税区内とベトナムなどASEAN諸国家間で商品自由貿易を実現する。
③憑祥総合保税区に入った国外の商品に対して保税を行う。
④憑祥総合保税区内の商品が国内に送られる時は通常の輸出手続きがとられる。
⑤憑祥総合保税区に入ってきた国内商品は輸出と同等の扱いとなり,輸出税還付が行われる。
⑥憑祥総合保税区内にある企業間の商品交易に関しては増値税及び消費税の徴収を行わない。
⑦憑祥総合保税区での加工生産については,増値が40%以上のものは国内産品と同等にみなし,輸入関税を免除する。増値が40%未満のものは,中国・ASEAN自由貿易区商品に照らして輸入免税,「験放」手続きをとる。
⑧憑祥総合保税区内で加工生産された産品は,輸入時に現行の国境貿易政策に従って,輸入増値税の半減措置がとられる。
⑨憑祥総合保税区内で加工生産された輸出用商品は,対外貿易に関する管制措置による制約を受けない。
⑩憑祥総合保税区に入った中国公民が人民元8000元以下の物品を購入,携帯して,国内に入る場合は免税扱いとする。

【注】上記,②⑦⑧⑨⑩に関して国家発展改革委員会,財政部,商務部,税務総局から異議。名称の変更(「広西憑祥総合保税区」)や辺民互市点(浦寨,弄懐)の除外が主たる内容。

★ドンダン=ランソン国境経済区

★一軸二翼(広西)

★広西北部湾経済区計画