| ペルー、エクアドル、チリ派遣調査報告 調査国の諸事情と考古学 人類学調査における調査許可取得について |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
[報告者]大貫 良史(東京大学大学院総合文化研究科) |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 目次 0.はじめに 1.ペルーについて 2.エクアドルについて 3.チリについて 4.おわりに |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
0.はじめに平成15年10月から11月までの約2ヶ月間、南米ペルー、エクアドル、チリ三国において経済的、社会的諸事情と現地で考古学的、人類学的フィールド・ワークを行う際に必要な調査許可の取得方法についての情報収集を行ってきた。近年中南米地域を対象とした研究、フィールド・ワークは、以前にも増して多くの研究者の行うところとなってきているが、中南米地域独特の手続きの複雑さや政治、社会情勢の変化に伴う諸手続の変更などがあるため、現地調査を行おうとする研究者は常に最新の情報を入手しておくことが望ましい。そういったことから今回は、特に考古学分野、人類学分野においてフィールド・ワークを行う際に必要となる調査許可の申請手続きについて重点を置きながら、研究者が現地で調査を行う際に参考となるような情報の収集に努めた。また、同地域で行われた以前の調査報告で問題点として指摘された点についても、不十分ながらその後の経過などについて大使館や関係機関などでインタビューを行った。その際調査に協力してくださった関係各所の人々には、この場を借りてお礼申し上げたい。 さて、最近のペルー、エクアドル、チリ三国における一般的な政治、経済、社会情勢は、比較的安定しているといえる。ペルーは例外的にフジモリ大統領に対する疑惑追及やその後のトレド大統領の公約不履行によるデモなどで多少政治的、社会的に不安定なところが見られるが、その他マクロ的経済指標では三国とも安定傾向にある。 しかしながらマクロ指標の安定は、そのまま経済の好調さを意味するものではないし、依然として政治的、経済的、社会的歪みは存在していると言えよう。こうした現象は研究者にとってはむしろ格好のテーマとなりうるのであろうが、現地調査に際しては研究者自身の身に危険が及ぶ可能性があることを肝に命じておかなければならない。現地で調査を行う場合、慣れた者でもトラブルに巻き込まれることがある。南米という場所柄、安全には十分に気を遣っていただきたい。 以上を踏まえた上で、ペルー、エクアドル、チリ各国における調査報告を以下に記す。 1.ペルーについて●概要 2000年のフジモリ前大統領の罷免からトレド大統領誕生、そして現在に至るまで一連の政治騒動は未だ終結していない。トレド大統領が就任前に公約とした貧困撲滅及び雇用創出も思うように進んでおらず、これに不満を持つ国民によるデモなどの抗議活動が行われ、政府はペルー全土を対象とした非常事態宣言を発令する状況に追い込まれるなど、社会的混乱が夏前に一時見受けられた。 それに対して経済的には、フジモリ期に推し進められた鉱業部門開発が実り、GDP成長率は5.2パーセントを達成、ラ米の中でもマクロ指標の最も安定した国の一つとなっている。しかしながら、ミクロ的にはまだまだ問題点も多く、特に貧困問題は未だ大きな課題となって残っている。特に国民の大部分を占めるのは農民であるにもかかわらず、アスパラガスなど海岸部で行われている輸出作物をのぞいて、農村人口の大部分を占める山岳部では輸出作物の生産が非常に少ない。総輸出に占める農産物の割合は2.8パーセントにすぎず、山岳部における農業経済のレベルアップは急務である。それはまた地方における貧困問題の解決にもつながるだろう。 一時期のテロ活動はフジモリ期に終息するも、最近になってセンデロ・ルミノソによると思われる誘拐事件が再び発生している。しかしながら以前なら確実に殺害されていただろうと言われているように、テロリストの手法も変化してきている。これはかつての強硬な手口では、もはや誰の支持も得られないと考えたテロリスト側心理の変化の現われであり、ペルー社会の変化でもあろう。このようなこともあるが全般的な日常生活においては、ここ数年大きな混乱は見られず、比較的過ごしやすくなっているのではないかというのが印象であった。 ペルーは以前から考古学、人類学関係の研究者による調査が多く行われている地域であり、在外公館との連絡も円滑に行われているようである。しかしながら以前の小野幹雄先生の調査で指摘されていた、調査者が便宜供与依頼を出さないという問題については、現在でもほとんどの研究者は行っていないようであった。ただこれに関しては、外務省側にも多少不明確な点があるようで、現地へ行った際に調査を行う旨を伝えてくれれば通関手続きくらいはいつでも手伝うとのことであった。 ●調査許可について 考古学、人類学的調査を行う際に必要となる調査許可の申請先は、文化庁 (Instituto Nacional de Cultura)である。調査許可申請について以下、調査 規定を掲載する。 INSTITUTO NACIONAL DE CULTURA Reglamento de investigaciones arqueologicas Resolucion Suprema No.994-2000-ED (El Peruano, 25 de enero del 2000)
●関係省庁および研究機関連絡先について 調査手続きの窓口となる関係省庁および研究協力を依頼する大学などの住所は以下の通りである。 Pontificia Universidad Catolica del Peru Av. Universitaria cdra. 18, San Miguel Lima-32 Telf. (511) 4602870 Instituto Nacional de Cultura Av. Javier Prado Este 2465, San Borja Lima 41 Telefono 476 9933 Fax 4769880 Museo Nacional de Arqueologia, Antropologia e Historia del Peru Plaza Bolivar, Pueblo Libre, Lima 21 Telefonos (01) 463 5070, 463 2009 2.エクアドルについて●概要 エクアドルでは99年マワ政権期に通貨スクレのドル化が行われた。当初この影響は大きく、2000年には物価上昇率が91パーセントに達したが、現在このドル化に伴う混乱は終息へ向かっているようである。ただドル化以降、現在の物価水準は欧米諸国に比べてもひけをとらないほど高くなっており、滞在費等の検討には注意が必要である。 政治情勢はノボア前大統領以降、比較的安定しておりグティエレス現大統領に引き継がれている。ノボア政権期に行われた国際機関との融資に関する合意や経済政策により、一定の経済的安定を達成するも、ドル化に伴う国内価格の上昇により輸出品の国際競争力が失われ、反面輸入が増加した。しかしながら石油の国際価格上昇により経済的な混乱は最小限に抑えられている。こうした状況の中誕生したグティエレス政権は、汚職や貧困撲滅を公約に掲げているがその成果はまだあがっていない。さらに先住民系政党との連立崩壊やイラク問題でアメリカ支持を表明したため、当初の支持率60パーセントは現在では10パーセントから20パーセントの低水準に落ち込んでおり、大統領の支持基盤は弱くなってきている。また、バナナ業者による暴動や先住民の地位向上の圧力があり、2003年に起きたボリビアの一連の騒動がいつ飛び火するかわからないといった不安もあった。さらにこうした社会情勢の不安定化によって国際的信用を失うことになれば、IMFをはじめとする国際機関からの融資を失いかけず、エクアドルとしては重大な懸案事項である。 治安情勢は、ここ数年で確実に悪化してきている。特に首都キトでは、今まで治安の悪さが指摘されてきたグアヤキルともはや変わらないほどの治安状況になってきており、現に筆者が滞在中にも、目の前で拳銃を使った強盗事件が発生した。またエクアドル北部のエスメラルダス県、カルチ県、スクンビオス県などはコロンビア系のゲリラ組織が勢力を広げており、これに伴いゲリラ式犯罪が増加しているため調査に関わる際には十分注意するか、場合によってはこれらの地域でのフィールド・ワークは延期する等の対処が必要である。エクアドル北東部のジャングル地域ではマオラニー族の抗争がしばしば行われており、スペイン語が通じないこともあるため調査の際には、マオラニー族の案内人を伴った方がよいとのことであった。 エクアドルはペルーなどと比べると調査を行う研究者の数がまだ少ないため、研究者と大使館など在外公館との連絡は円滑とは言い難いようである。在外公館としては、どこでどのような調査を行うかといった基本的な情報について、現地で必ず一声かけてほしいとのことであった。筆者が行った際には、在外公館の職員は現地でフィールド・ワークを行っている研究者をほとんど知らなかったし、実際エクアドルの治安情勢などを考慮すると不測の事態に巻き込まれる可能性は十分にあるため、調査を行う者は滞在の日程等の報告を是非忘れずに行ってほしい。 ●調査許可について エクアドルでの考古学、人類学的調査を管轄するのは、文化庁(Instituto Nacional de Patrimonio Cultural)である。以下、調査許可取得に関する規定を記す。 INSTITUTO NACIONAL DE PATRIMONIO CULTURAL DEL ECUADOR RESUELVE DICTAR EL REGLAMENTO PARA LA “CONCESION DE PERMISOS DE INVESTIGACION ARQUEOLOGICA TERRESTRE”, Contenido en las siguientes clauslas.
●調査手続きに関する関係各所の連絡先について Instituto Nacional de Patrimonio Cultural de Ecuador La circasiana Av. Colon Oe 1-93 y Av. 10 de agosto Telefono: (593) 02 2543257 Pontificia Universidad Catolica del Ecuador 12 de Octubre, entre Patria y Veintimilla Telefono: (593) 02 2991700 / 2565627 3.チリについて●概要 チリは三国間のみならず、ラテン・アメリカの中でも最も安定した国の一つである。特に経済的には、もともと資源、産業の乏しかった地域という歴史を持つため、周辺国に対する競争力をいかに保つかという努力をし続けてきた。このことが「まじめな」国民性を生んだといえよう。政治的には1970年代、1980年代のピノチェトに始まる長い軍政を経験しているが、1990年の民政移管後は大きな混乱もなく現在に至っている。 経済的には、天然資源である銅輸出が主力であるが、他にも水産業、製造業など多角化がなされている。特に現在のラゴス政権下では、資源開発中心の経済構造からの脱却が推進されている。日本企業の進出も盛んであり、水産業、林業、鉱業など延べ60社あまりが進出している。貿易先としても日本は米国と並ぶ主要貿易相手国であり、経済的相互関係は非常に重要なものとなっている。しかしながらチリの経済構造は総じて輸出依存度が高く、米国経済の低迷、国際銅価格の停滞により2002年のGDP成長率は2.1パーセントにとどまっている。さらに98年以降のアジア危機以来国内需要は伸び悩んでおり、これに伴い失業率も高水準で推移しているため(9パーセント前後)、失業率、国内消費の回復、また自由貿易協定などの外交が当面の政策課題となっている。 チリは経済的、社会的に安定しており、首都サンティアゴはかなりの都会であるが、治安状況は非序によい。警察も信頼でき、今回調査を行った国の中で最も安心して町を歩けた。ただ、北部のアリカ、イキケに行った際に車を夜間路上駐車することは危険であったりするので、やはり注意すべきことは同じである。また、地方が中央政府を信用しないなどの風潮もなく、地方で学術的な調査を行う際に支障になるような摩擦も研究者のトラブルも今のところほとんどないという。 チリの大学は、ペルー、エクアドルとは違い国立大学が比較的よく機能している。私立ではやはりカトリカ大学の評価が高い。チリは中南米の中で初等、中等教育が最も充実している国であり、そのためか大学における研究活動も盛んである。ただ今のところ日本の研究者との人的交流はまだまだ少なく、共同研究をはじめとする研究交流の要望の声をよく聞いた。というのも研究意欲も高く人材も豊富ながら、やはり学術研究のための資金が不足しているため、海外のファンドで調査研究をしたいとの思惑があるようだ。外務省を通じて文化無償等の文化的援助はよく行われており、それに対しての評価も高いが、やはりラテン・アメリカ世界では人的交流が最も評価されるポイントである。今後は研究者同士の交流がいっそう盛んとなることを期待したい。 ●調査許可について チリでの考古学、人類学的調査を管轄するのは、文部省文化財審議会(Ministerio de Educacion Consejo de Monumentos Nacionales)である。以下、調査許可取得に関する規定を記す。 Ley No.17.288 de Monumentos Nacionales y Normas Relacionadas 2003 Republica de Chile Ministerio de Educacion Consejo de Monumentos Nacionales Decreto Supremo No. 484, de 1990, del Ministerio de Educacion: Reglamento sobre Ecavaciones y/o Prospecciones Arqueologicas, Antropologicas y Paleontologicas
●調査手続きに関する関係各所の連絡先について Consejo de Monumentos Nacionales Licenciada en Historia Av. Vicuna Mackenna 84, Providencia Santiago - Chile Fonos: (56) (2) 665 1516 - 665 1518 Fax: 665 1521 Pontificia Universidad Catolica de Chile Alameda Bernardo O'Higgins 340 - Mesa Central Fonos: (56-2) 3542000 ? Santiago Universidad de Chile Facultad de Ciencias Sociales Capitan Ignacio Carrera Pinto 1045. Nunoa. Santiago. Chile. Telefono : (56-2) 678-7706 Fax: 856-2) 272-7635 4.【おわりに】今回は南米でもアンデス地域といわれる国が調査の対象となったが、経済的格差はあるが文化的、社会的によく似ているのがおもしろい。特にチリでは首都サンティアゴは一見してペルー、エクアドルとは別世界であるのに対して、北部へ行くとペルーと見間違うほどに人も町並みもまた食べ物もよく似ている。 前回の調査で指摘されていた在外公館への連絡について、現地へ着いた際にどこで、どのような調査をどのくらいの期間行うのかといった基本的な内容でかまわないので教えてほしいというのが現地担当者の共通の意見であった。これは、地方でフィールド・ワークを行う場合など、まだまだ予期しないトラブルに巻き込まれる可能性の高い地域だけに研究者は在外公館との連絡を保つ努力をするべきである。地方で現地の人々との間のトラブルや犯罪に巻き込まれた場合もそうだが、社会情勢の急変などの混乱が起こらないとも限らないので、緊急時に連絡が円滑に行えるよう配慮しなければならない。現にボリビアでの一連の騒動では、かなりの混乱があったように研究者の身に危険が及ぶような状況も十分あり得るのである。 現地で研究協力の依頼や受け入れ機関となる大学は、私立系の大学が国立よりもよいというのが比較的共通していた。ペルーではサン・マルコス大学がかつてデモばかりで授業をほとんど行っていなかったという時期があったが、エクアドルでは現在も似たような状況が続いているという。ただチリ、エクアドルは大学構内へは自由に出入りできるが、ペルーでは一般的に出入り口で身分証や行き先のチェックを受けるのが普通であるので、現地で大学を訪れる際には注意が必要である。 手続きに関して、現地に協力者がいた方が何かと便利である。特にラテン・アメリカでは人的コネで臨機応変に事が進むことがよくある。これは手続き上の問題だけではなく、人的交流という点でも重要なことである。前にも書いたがラテン・アメリカでは何よりも文化的人的交流が非常に評価される。このことからも調査のしっぱなしや現地での研究交流を抜きにした調査は、日本人の評判を落とすだけでなく今後の調査活動に影響を与える事にもなりかねない。調査を行う研究者には、調査以外の面でも是非気を遣っていただきたいと思う。 最後になるが、現地で調査に協力して下さった方々に重ねて謝意を表したい。 (2004年3月18日脱稿) 目次へ戻る |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Last updated: 6 Sep, 2004
Copyright(C)2004, OONUKI Yoshifumi, All Rights Reserved. |
| 【総括班事務局から】 各機関の電話番号・Fax番号については、調査時点のものなので、連絡をとる場合は現地へ確認後、お願いします。 |