Archive20112 :: ILCAA Ishikawa Project 2010

2011年度第2回研究会(通算第4回目)

日時:2011年7月23日(土曜日)13:00-19:00
会場:AA研セミナー室(301)
共催:基幹研究「アフリカ文化研究に基づく多元的世界像の探求」

報告1. 村尾るみこ「技術からみるキャッサバ栽培の多様性」
 アフリカで主食作物として栽培されるキャッサバは、概してさまざまな自然環境で生育可能な救荒作物として知られる。近年、食料の安全保障や開発援助の分野では、キャッサバ生産の担い手である小規模農家レベルでの栽培技術が注目を集めている。しかしながらそうしたローカルな栽培技術、およびその変化については不明な点が多い。本報告では、アフリカにおけるキャッサバ栽培の多様性をアフリカ各地の事例から検討することを通じて、キャッサバ栽培に関わる研究課題を具体的に提示することを試みた。
 これまで報告されているローカルレベルでのキャッサバ栽培は、キャッサバの栽培適地のものであり、また栽培技術レベルでの歴史的変遷を扱ったものが少ない。本報告では、キャッサバが生育初期の段階で湿潤な生育条件を必要とすることを指摘した上で、土壌環境が特に乾燥状態にあるキャッサバ栽培限界地の例としてザンビア西部州のキャッサバ栽培技術を紹介した。同地でキャッサバを生産するのは、アンゴラ出自集団である。彼らのキャッサバ栽培法は、以下の点が特徴的である。1)生育初期の乾燥に耐えられるよう、長い種茎が必要となる。2)長い種茎が必要となるため、種茎本数が多く確保できず、種茎が不足する。3)乾燥した環境で良好に生育する、良質の、長い種茎を確保するため、生育途中の株から地上部の大部分に相当する茎を切除する。
 また、こうしたアンゴラ出自集団独自のキャッサバ栽培技術は、ザンビア西部州に歴史的に残されてきた伝統的な土地支配体制によって、アンゴラ出自集団が耕作地を限られるなか、彼ら自身が創出したものであることを示した。以上、本報告では、キャッサバ栽培技術が初期生育の土壌水分条件によって多様となることを示した。また、今後はキャッサバの生育初期に注目して、栽培限界地のなかでの栽培技術の多様性を検討していくことを指摘した。さらに、本報告を通じては、歴史的観点からキャッサバ栽培技術の変化を検討するには、学際的かつ多様な研究手法を総合した多角的アプローチが重要であることが示唆された

報告2. 安渓貴子「キャッサバの毒抜き法に刻まれた環境と歴史」
 栽培植物は人類最大の文化遺産ともいわれ、人類は栽培化の過程で毒が少ない品種を選んできた。しかしキャッサバは例外で有毒な品種が優占する地域も多い。キャッサバは旱魃に耐え、痩せ地でも育つことから、現在熱帯地域ではもっとも有望視されている作物である。そして、有毒品種には獣害・虫害につよく、収量も高いという特長があるのである。
 アメリカ大陸で栽培化されたキャッサバは、奴隷貿易にともなう食料として積極的にアフリカ大陸に持ち込まれたが、アフリカでは、原産地のアメリカとは異なる多様な毒抜き法が見られる。サハラ以南のアフリカ大陸で、現在のキャッサバの毒抜き法の報告を広く集め、それらを毒抜きの原理から読み解くことを試みた。その結果を、タイプ分けし、環境との関係をたどると、アフリカ独自の調理法の知恵ととともに、アフリカの文化史の一端が浮かび上がってくる。
 アフリカ大陸でキャッサバ栽培が定着・拡散したルートは、その毒抜き法にもとづいて以下のように整理された。①赤道直下の湿潤な熱帯雨林を流れるコンゴ川に沿った交易の道、②その南に広がる季節林やサバンナ地帯に君臨したコンゴやルバの王国の道、③コンゴ盆地の東の大湖地域のブガンダなどの諸王国の道、④アメリカから戻った解放奴隷の子孫たちが定着した西アフリカ海岸部への海の道。これに加えて、⑤点在する採集狩猟民の野生植物の毒抜き法につらなる方法がある。これらを毒抜き原理から整理すると、①嫌気発酵後湿ったまま加熱するシクワング。②嫌気発酵後日光乾燥し、粉にして熱湯でこねるウガリやフーフー。③カビによる好気醗酵で毒抜きし、乾燥し、粉にして熱湯でこねる黒いウガリ。④生芋をすり下ろして発酵させ酸味風味をつけ、水切りして粒状にしてから加熱するガリやアチェケ。⑤茹でてから流水でさらすルマタなどが代表的なものである。これらがすべてではないが、恣意的な調理を許さない有毒作物であればこそ、文化史の復元に対するたしかな手がかりとなることを強調しておきたい

報告3. 小松かおり「アジアとアフリカのバナナ史」
 ①作物を対象とした歴史復元の方法論の現在—バナナの事例:2000年までは、言語学における「バナナ」を指す語の分布と品種分布の分析が進んでいたが、最近特に進んでいるのは、生物学における、分子マーカー分析、野生種と栽培種の系統が解明されつつある。考古学分野では、2000年以降、微細な植物化石の分析が進み、これまで証明できなかった種なしバナナの存在が各地で確認できる可能性が高まった。民族生物学的な報告も増えている。②アジア・アフリカのバナナ栽培文化の比較研究報告:13地域の品種・栽培法・利用法のフィールドワークの結果、バナナ栽培文化には、東南アジアから東アフリカ海岸部にかけての地域と、東アフリカ高地、中西部アフリカの3つの文化圏があることがわかった。③アフリカへのバナナ導入仮説:これまで、アラブ・エチオピアルート、インド洋ルート、マダガスカルルートなどが提唱され、時期や規模が議論されてきたが、最近、西アフリカから直接導入されたという説が加わった。④バナナとキャッサバ 作物の移行史の可能性:中部アフリカの農耕史から、バナナからキャッサバへ移行した理由を整理し、作物の特性と在来の農耕文化、導入の歴史を複合的に見る必要性について論じた。