讀下:9-0988

文書構造

讀み下し文

文書本體

書出

二十六年(221)十一月甲申朔庚子(27日)、丹陽將奔命尉の虞[i]、敢へて之れを言ふ。

本文

状況説明

前日、稟を丹陽の奔命吏卒に致し[ii]、遷陵に食せしめたるも、遷陵稟せず。

用件

請ふらくは案じて稟せよ。報を謁む。

書止

敢えて之れを言う。

附記

集配記録

十一月庚子水十一刻刻下盡く[iii]、士伍丹陽□里の向、以て來る。/徹半(ひら)

作成記録

襄手す。

[i] 「將奔命尉」は奔命を統率する尉。職事に応じて臨時に任命された官職であろう。奔命は[校釋貳]は「応急出戦」と解釈する。

なお、簡9-1114には、本簡と同じ年月に、鄢県の將奔命尉の沮が直接に貮春郷に、「𤺊」に対する續食の必要性を、簡9-1112には、同じ年度の二月に、唐亭叚校長の壯が県廷に対して盗賊に対処すべき「壯卒」が不足する窮地を、訴えており、天下統一前後の時に、遷陵県の治安が悪化し、他県から応援要員が必要となったことが窺えるが、本簡の丹陽將奔命尉の虞もそうした事情で、奔命吏卒を率いて遷陵に滞在していたと考えられる。

[ii] 稟を致す、稟は食料支給、致はいたす・いたらしめること、いたるようにすること、合わせて食料支給の手配をする意味を表す。『秦律十八種』には、

011     乘馬服牛稟,過二月弗稟、弗致者,皆止,勿稟、致。稟大田而毋(無)恒籍者,以其致到日稟之,勿深致。       田律
090     受(授)衣者,夏衣以四月盡六月稟之,冬衣以九月盡十一月稟之,過時者勿稟。後計冬衣來年。囚有寒者爲褐衣。
091     爲𢄐布一,用枲三斤。爲褐以稟衣,大褐一,用枲十八斤,直(値)六十錢,中褐一,用枲十四斤,直(値)卌(四十)六錢,小褐一,用
092     枲十一斤,直(値)卅(三十)六錢。已稟衣,有餘褐十以上,輸大内,與計偕。都官有用□□□□其官,隸臣妾、舂城
093     旦毋用。在咸陽者致其衣大内,在它縣者致衣從事之縣。縣、大内皆聽其官致,以律稟衣。          金布

とあり、最初の稟は、食料支給対象となっていること、二つ目と三つ目の稟は実際の支給行為、一つ目の致は、支給を指示するという動詞、二つ目の致は、命令を伝える文書を指す。本簡では、奔命吏卒に食料支給が行きわたるように手配し、それで、遷陵に食料を受け取らせるようにしたが、そのために実際は食料支給を指示する文書を遷陵県に送付したと考えられる。その文書を受け取ったはずの遷陵県は実際に支給(「稟」)しなかったので、本簡に記されている文書で支給の督促をした。なお、本簡では、「奔命吏卒」が動詞「致」の目的語となっているが、「奔命吏卒」に至らしめることから、「奔命吏卒」のために致したという意味になる。一方、文書送付先の機関が致の目的語となる用例は、『秦律十八種』簡090-093に次のように見える。

090     受(授)衣者,夏衣以四月盡六月稟之,冬衣以九月盡十一月稟之,過時者勿稟。後計冬衣來年。囚有寒者爲褐衣。
091     爲𢄐布一,用枲三斤。爲褐以稟衣,大褐一,用枲十八斤,直(値)六十錢,中褐一,用枲十四斤,直(値)卌(四十)六錢,小褐一,用
092     枲十一斤,直(値)卅(三十)六錢。已稟衣,有餘褐十以上,輸大内,與計偕。都官有用□□□□其官,隸臣妾、舂城
093     旦毋用。在咸陽者致其衣大内,在它縣者致衣從事之縣。縣、大内皆聽其官致,以律稟衣。          金布

[iii] 本文書が県廷に届いた日付が発信年月日と同じことから、丹陽將奔命尉の虞が遷陵に滞在していることが判明する。恐らく奔命吏卒の隊を率いて遷陵に来ていると思われる。文書を県廷に持ち込んだのも、丹陽出身者で、隊員の一人であろう。