讀下:8-1564

文書構造

讀み下し文

添付書類

【遷陵縣(?)の上行文書。】

文書本體

書出

【某年某月某日、洞庭某職の某人[i]、之れを卻く。】

本文

【……】令及び書の問う所に應ずるや、且(は)たこれに應ぜざるや。(これに)應ぜざるに、當(まさ)に坐すべしと云うの狀は何如ぞ[ii]。それ謹みて案致し、更(あらた)めて奏・決[iii]を上(のぼ)せ。

附記

簿の留まりし日を展(の)ばす。卻を謄(うつ)すことなかれ。[iv]

書止

它は【律令の如くせよ。】

附記

送達記錄

【(某月)某日某時、某人以て來る。/某半(ひら)く/發(ひら)く。】

作成記錄

【某手す。】

[i] 本文書は、受信者に奏決の上呈を求めていることから、受信者が縣級の長官、發信者が郡級の長官もしくは副長官であることが判る。

[ii] この文は、假定法を内包しており、完全な形は次の通りであろう。

弗𤻮(應),弗𤻮(應)而云當坐之狀何如

(これに)應ぜずんば、(これに)應ぜずして、當(まさ)に坐ずべしと云うの狀は何如ぞ

類似した狀況は『爲獄等狀』の事案四「芮盜賣公列地案」にも見える。その簡063-064には、郡が縣に對して、ある事件の量刑基準について

芮買(賣),與朵別賈地,且吏自別直

芮の賣るは、朵と與(とも)に地を別ちて賈(あきな)いしや、且(は)た吏、自ら別ちて直(あ)てしや

というように、契約當事者が建造物と區別して決めた土地の價格に據ったか、それとも役人が自ら價格評價を行ったかを問う選擇疑問文に續けて、

別直以論狀何如,勿庸報。

別ちて直て以て論ずるの狀の何如なるは、報ずるを庸うるなかれ。

という指示を與えている。指示の前提は、當然役人が價格評價を行ったという條件にほかならず、完全な文章は、

別直以論,別直以論狀何如,勿庸報。

別ちて直て以て論ぜしかば、別ちて直て以て論ずるの狀の何如なるは、報ずるを庸うるなかれ。

という形を取ると考えられる。

[iii] 奏は、進言することから轉じて、上級機關に上呈される文字資料(簡8-1617+8-0869注?參照)、決、……(簡8-0144+8-0136注?參照)、ここでは、論奏とそれに對應した事案處理を指すと考えられる。論奏は、罪の評定を内容とする文字資料(簡1695注?參照)、場合によっては、『爲獄等狀』の事案10や『奏讞書』の事案22のように、搜査の經緯などの詳細な記錄を含む。事案處理は、例えば『爲獄等狀』事案01に

013     五月甲辰,州陵守綰、丞越、史獲論令癸、瑣等各贖黥。癸、行戍衡山郡各三歲,以當灋(法);先備

014     贖。(後略)

五月甲辰、州陵守綰・丞越・史獲、論じて癸、瑣等に令して各々黥を贖わしむ 。癸・行、衡山郡に戍すること各々三歲、以て法に當(あ)つ。(瑣等)先に備(つぶさ)に贖えたり。

と、『奏讞書』事案17に

106 (前略)二月癸亥,丞昭、史敢、銚、賜論黥講爲城旦。

二月癸亥、丞の昭・史の敢・銚・賜、論じて講を黥して城旦と爲す。

とみえるように、刑罰の執行を含む。秦漢の文書用語では全く異なるが、「論奏」に對して、この事件處理を後世の用語を借りて「論決」と稱することもできよう。

[iv] 謄、書き寫す、ここでは、奏決を上呈する際この文書を書き寫す意と推測される。『説文解字』言部には、

謄,迻書也。

謄、迻(うつ)して書く也。

という。文書への返信には、元の文書(の一部)を書き寫すことが通例となっているようであるが、「謄すなかれ」とは、この却下の文書を書き寫さず、直接に奏決の上呈という新しい指示内容に對應して文書を作成せよ、という意味に解される。

なお、謄と騰は上古音が同じく、朱駿聲等が指摘するように通借の可能性も考えられるが、本文書では、處理として案致と奏決の上呈が指示されており、他に傳送すべき機關が見當たらないことから、謄と騰が意識的に使い分けられているように思われる。里耶秦簡では、「謄」が使われるのは本簡のほか簡8-1151のみであり、表現は同じく「毋謄卻」となっている。「騰」字が用いられる「當騰騰」等とは明らかに文脈が異なる。その他にも秦漢簡牘には、「騰」と讀み替えられる「謄」字が見當たらず、「傳」と「迻書」という許愼の訓詁の通り使い分けがなされたと考えられる。訓詁學で兩字の混同が始まったのは『玉篇』からのように思われる。その言部には、

謄,傳也。

謄、傳うる也。

という。