文書構造 |
讀み下し文 |
|
文書本體 |
書出 |
敢えて尉に告ぐ。 |
用件 |
||
書止 |
唯れ、遺(のこ)すなかれ[v]。 |
[i] 求盜、官職名担当。(以下は石原┘ジュメ「〇一丁謂類文書から〇一壬詔類文書」(2月18日付)の注案。)
士吏、校長・獄史などに從い、盗賊の捕縛などの治安維持活動に從事する者。黔首から徴発されたと考えられる。
小男子說。今尉徵說以爲求盜A員吏勿。B(里耶秦簡⑧2027)
[ii] 以書到時、「以某時」は時点を表し、「書到る」は文書の到着を指し、文書到着後すぐに、つまり卽時の意。本文書は、尉に緊急出動を命じたものと解される。
[iii] 衣器、備品・物の汎稱。嶽麓秦簡『為獄等状』では、簡059と060に見える「衣器」は、簡053と054の「分器」や簡056の「有器」に對應しており、盜掘品を指すことが明らかであり、「衣」と「器」とがそれぞれ衣類と器物を意味するとは考え難い。本簡では、尉と所属の求盗や戍卒に対する出動命令が記されており、同様に、衣類とその他の器物に関する個別的指定よりも、装備品全般に関わる指示と捉えた方が自然であろう。從來知られていた「衣器」の用例を調べると、『法律答問》簡一七〇に
「夫有罪,妻先告,不收。」妻賸(媵)臣妾、衣器當收不當?不當收。
「夫、罪有るも、妻先に告げば、收せず。」(と律にあり。)妻の媵(つきそ)いし臣妾・衣器はまさに收すべきや不(いな)や。まさに收すべからず。
と、『封診式』簡〇八に
以某縣丞某書,封有鞫者某里士五(伍)甲家室、妻、子、臣妾、衣器、畜產。
某縣丞某書を以て、鞫有る者の某里士伍甲の家室・妻・子・臣妾・衣器・畜產を封せり。
『奏讞書』簡二一四-二一五に
有受孔衣器、錢財,弗詣吏,有罪。
孔より衣器・錢財を受くる有るに、(これを)吏に詣さざるは、罪有らん。
というように、同じく汎稱と理解すべきであろう。
[iv] 操、たずさえる意、ここでは、緊急出動に必要な武器等の装備品の携帯を指す。9-0982には、
遣佐壬操副詣廷。
というように、佐の壬が派遣されて、副本を携えて県廷に出頭する様子が窺える。「操」字については、さらに8-0173の注?を参照。
[v] 遺、うしなう意から転じて、遺漏。本簡では、「毋遺」が「盡」に対応して、求盜や戍卒を全員出動させる意に解されるが、装備品の「衣器」を指す可能性も排除できない。『説文解字』辵部には、
遺,亡也。
遺、亡(うしな)う也。
といい、『呂氏春秋』貴公の
荆人有遺弓者。
荆人、弓を遺(うしな)う者有り。
に対して、高誘は
遺,失也。
遺、失う也。
と注釈する。『韓非子』有度には、
刑過不避大臣,賞善不遺匹夫。
過を刑するに、大臣を避けず、善を賞するに、匹夫を遺さず。
という用例が見える。