文書構造 |
讀み下し文 |
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文書本体 |
出納物品 |
粟米二斗。 |
本文 |
二十七年(220)十二月丁(21)酉、倉の武・佐の辰・稟人の陵、出だし、以て小隸臣益に稟(さず)く[i]。 |
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附記 |
監查記録 |
令史戎夫、監す[ii]。 |
作成記録 |
【……。】 |
[i] 「粟米二斗」は、未成年男性に対する一日当たりの標準支給額の「四升六分升一」(8-1335+8-1115)では割り切れず、計算上は、むしろ成年男性(一日当たり泰半斗、9-0934+8-1014)の三日分か、嬰児(一日当たり一升泰半升、8-0217)の十二日分の支給額と考えられる。人名の益については、簡9-2289には成年男性の刑徒として「益」、簡8-0521には隷妾の嬰児として「益」もしくは「益来」という名前が検出される。本簡にみえる「小」字を衍字と考えれば、前者にみえる益に対する支給行為に関わる可能性がある。その場合には、益は簡9-2289に列記される「隸臣毄城旦三人」もしくは「隸臣居貲五人」の中の一人ということになろう。なお、「二斗」という支出額は、簡9-1903には、巫県出身で「居貸」のために遷陵県に配属されている士伍という身分の成年男性に対する「稻粟米」の貸与額として現れる。
[ii] 監、上から水を張った皿に臨む象、つまり鑑に映して見極める意、轉じて監査すること。『説文解字』臥部には、
監,臨下也。从臥、䘓省聲。
監、下に臨む也。臥に从い、䘓省の聲。
といい、『爾雅』釋詁下・『玉篇』卧部等には「視」と、『國語』の韋昭注には數か所「察」と訓ぜられる。嶽麓秦簡(肆)の律令簡牘243には、
243 ●關市律曰:縣官有賣買殹(也),必令令史監,不從令者,貲一甲。
というように、賣買に際して令史による監査を受けることが義務付けられていたことが窺える。穀物の保管および出納についても令史による「監」が行われることは、『法律答問』に言及される「廷行事」から確認される。
151 空倉中有薦,薦下有稼一石以上,廷行〖事〗貲一甲,令史監者一盾。
空倉中に薦(むしろ)有り、薦の下に稼(こくもつ)一石以上有らば、廷行事では、(吏の主する者に對しては)一甲を貲(はか)り、令史の監する者は一盾を貲る。
里耶秦簡の出納證明文書には必ず「監」もしくは「視平」と稱せられる令佐もしくは令史の監査が明記され、令佐・令史の立ち合いの下で出納が行われていたことが判る。實質的な違いはなかろうが、「監」が「みる」という動作から監査を表しているのに對し、「視平」は、出納行爲の公平な遂行が保證されるという視察の結果に重きを置いた表現と言えよう。視平については、簡8-1545注?を參照。