文書構造 |
讀み下し文 |
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添付書類(自言文書) |
書出 |
令佐の華、自ら言わく、 |
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本文 |
資料根據 |
故(もと)尉史たりしに、養の大隸臣の豎、華に補錢五百を負い[i]、約券[ii]有り。豎、戍卒の【從】事【せず】[iii]、贖耐[iv]罪ある賜[v]を捕え、千百五十二を購す。 |
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用件 |
華謁うらくは、五百を出だし、以て自らに償わしめよ[vi]。 |
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附記 |
送達記錄 |
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作成記錄 |
華【手す。】 |
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文書本體 |
書出 |
三十五年(212)六月戊午朔戊寅(21)、遷陵守丞の銜(かん)、少内に告ぐ。 |
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本文 |
問うに、辭が如し[vii]。豎が購より、當たる[viii]を資(と)り[ix]、出だして華に畀(あた)えよ[x]、及び豎に告して令して之れを知らしめよ。 |
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附記 |
送達記錄 |
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作成記錄 |
/華手す[xi]。 |
[i] 負(債務を負う)、初出。(補銭は恐らく注釈が書けないので、本注の中で意味未詳と注記するのがよかろう)
[ii] 約券、初出。
[iii] 「事」の前の缺字は、考釋注4を參照して簡8-0992「捕戍卒不從〼」に基づいて「不從」と補った。懸賞金の「購」(簡8-0660注?參照)は何れも錢千一百五十二となっており、本簡によってさらにそれが贖耐相当の罪を犯した者を捕獲した時の懸賞金額であることが判る。
[iv] 贖耐、贖刑の一つ、「耐」は輕重を表す。秦律には、特殊な身分に對して正刑の代替措置として用いられる換刑的贖刑と、正刑としての贖刑が存在するが、ここでは、正刑の「贖耐」を指す。「贖耐罪」とは、「贖耐」相當の罪を意味し、それによって懸賞金の購が決定される。正刑的「贖耐」の例は、例えば『秦律雜抄』に引用される秦律の次の佚文に見られる。
032 匿敖童,及占𤵸(癃)不審,典、老贖耐。(後略)
敖童を匿し、及び癃を占すること審らかならずんば、典・老、耐を贖う。
[v] 賜、人名。身分は戍卒、不從事という「贖耐」相當の罪を犯して、隷臣の豎に捕えられる。
[vi] 償、つぐなう・賠償する意(簡8-0644注?參照)、ここでは債務の辨濟・償還を指す。
[vii] 如辭、初出。(「辭が如くんば」と仮定法として読めないことについても案語を加えるべし)
[viii] 當(相当)、初出。(當、あたる・相当する意、ここでは、名詞として相当分、つまり債権に相当する金額を指す。……)
[ix] 資、初出。(陶安「試釋里耶秦簡“資購當”」を参照)」
[x] 案語(出=支出、畀=交付)。
[xi] 本文書について二點が注目に値しよう。一つには、申請人の令佐華は、文書作成者と同名である。令佐が縣廷において長官の文書を作成する任務にある以上、作成者の華は申請人と同一人物の可能性が極めて高い。もう一つには、送達記錄が記されていない。本文書は、縣廷に保管されていた副本と考えられるが、正式な經路を通じて文書が發送される時は、副本に送達記錄が記される。よって、本文書の原本は、簡8-0163等と同樣に、文書作成者によって受信者の所に持參されたと推測される。受信者はまた懸賞金の一部を申請人に交付することになっている少内なので、實質的な機能からすれば、本文書は手形の一種と理解することができる。すなわち、振出人(發信者の遷陵守丞銜)が、支拂人(受信者の少内)に對して、受取人(令佐華)に一定の金額(債權相當分の五百錢)を支拂うよう指示する。受取人の華は、この手形を支拂人の少内に提示することで支拂いを受ける。なお、實際の作成者が受取人となっている以上、振出人の銜がどれほどこのことを関知したか、また文書本文の「問辭如」等がどれほど事實を反映しているかは定かではない。