讀下:8-0838+9-0068

文書構造

讀み下し文

文書本体

出納物品

錢二千六百八十八[i]

本文

三十四年(213)後九月壬辰朔丁酉(06)、司空守の痤、少内守の就より受く。

附記

監查記録

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作成記録

瘳手す。

[i] 銭2688は貲二甲の相当額である。同じく銭2688を対象とする簡9-0423の証明文書には、出納事由として「坐亡城旦童」が明記されていることからも罰金刑との関連が窺えるが、罰金の相当額を少内が受け取って収入として計上すべきところ、それを司空に支出している点は極めて難解である。合理的な説明はまだできないものの、貲罪と関連して少内から金銭が支払われる状況は目下以下の二つ確認できる。

 一つには、罰金などの債務が、罰金課金の県ではなく、債務者が兵役や徭役のために配属されている県(「署所」)で取り立てられる場合である。簡9-0001~9-0012に記されている陽陵県司空の文書によれば、その場合には、現金の移動は発生せず、債務が発生した県(陽陵)と取り立てを行う県(遷陵)との間には帳簿上の処理(「受計」・「付計」)のみ行われるが、嶽麓秦簡(陸)の律令簡牘には次のように、元は現金の授受があったと解しうる文言が見える。

246  ●延陵言、佐角坐縣官田殿、貲二甲、貧不能入レ、角擇除爲符離冗佐、謁移角貲署所、署所令先居之。延陵

247  不求賞(償)錢。以䊮(糴)。有等比。●曰、可。 ●縣官田令丙一

「以䊮」の解釈は難しいが、符離縣に貲を移し送った延陵縣が引き換えに銭を求めないと特記されていることから、本来は金銭の授受が一般的であったと推測される。しかし、簡8-0838+9-0068においては、遷陵県の少内と司空の間に金銭の授受があったことが記されているため、遠隔地における債権回収との関連性はないと断定できる。

 もう一つには、判決の取り消しなどのために、納入済みの罰金が返還される場合がある。簡8-1583+8-0890に記されている少内の出納文書はその一例であるが、簡9-0423に関しては「坐亡城旦童」という出納事由があることから、また簡8-0838+9-0068においても、簡8-1583+8-0890のように返還(「還」)が明記されていないことから、そういう可能性は低いと考えられる。

 さらに、罰金の相当額が、もはや罰金が徴収された事件と無関係に支払われる可能性も一つ考えられる。つまり、少内の現金収入には、罰金の徴収が大きな比率を占めると考えられるが、それを徴収の単位である1344銭(一甲)と384銭(一盾)のままで貫緡(かんざし)にして保管していた可能性がある。そうすると、別の用途で概算で支出する場合には、整数の1000銭や3000銭の代わりに保管単位の倍数である1152(三盾)や2844銭(二甲)として支出したことがあり得る。概算払いにおける清算と思われる事例は簡?に見える。

 また、罰金との関連からすれば、罰金収入の帰属も考察に値しよう。簡8-0838+9-0068では、明らかに少内から司空へ支出が記され、簡9-0423では、支出事由として司空の監督責任と関連する罪名が明記されている。何れの場合にも違法行為の摘発主体は、司空嗇夫もしくはその代理にほかならないから、司空に対する支出は恰も摘発主体に罰金収入を還元する印象を与える。上計の基礎単位が県であるから、本来は県官の間ではそうした収入の区別がないはずとは考えられるが、罰金と関連して明らかに県官の間で金銭が動いていることから、その可能性は指摘しておく。