文書構造 |
讀み下し文 |
||
添付書類 |
【責券一牒】 |
||
文書本體 |
書出 |
【二十】八年(219)三月庚子朔丙寅(27)、廏守の信成、敢えて之れを言う。 |
|
本文 |
状況説明 |
||
啓陽丞の歐[iii]、啓陽(縣)より傳車【□】乘[iv]及び具を假り[v]、洞庭郡に徙れり[vi]。未だ署する縣を知らず。 責券一牒を寫し[vii]、車□□□上す。謁うらくは、洞庭に言い【……せしめよ。】 |
|||
用件 |
【……。】 |
||
書止 |
【敢えて之れを言う。】 |
||
附記 |
集配記録 |
||
作成記録 |
袪(きょ)手す。 |
[i] 前日、先日・過日。『孟子』公孫丑下には、
孟子致爲臣而歸。王就見孟子,曰:“前日願見而不可得,得侍同朝,甚喜。”
孟子、臣たるを致して歸る。王、孟子に就見して曰わく、「前日、見んと願いて得べからざりしも、同朝に侍するを得て、甚だ喜べり。”
という。敦煌漢簡の簡2266背には
□叩頭言梁翁來戌足下前日禮有不適願梁翁來戍
□頓首言梁翁來戌足下前莫到府□□長君不□
□叩頭して梁翁來戌足下に言う。前日、禮適わざる有り、願わくは、梁翁來戍【……】□頓首して梁翁來戌足下に言う。前に府に到る莫く□□長君不□
という用例が見える。
[ii] 言、上申文書の發信形式(解題参照)、ここでは、廏守信成が以前に縣廷に上申した文書を指す。
[iii] 歐、人名。J1⑯0005等には「遷陵丞歐」が見えており、啓陽縣から赴任した「歐」と同じ人物と推定される。
[iv] 「乘」の前には、一字ほど殘缺している。文脈からは、「一」と推測される。
乘、初出。(数詞)
[v] 假、かす・かりること、簡牘法制史料では多く公用による貸し借りを指す。『廣雅』釋詁には、
假,借也。
假、借るる也。
という。『秦律十八種』簡105-106には、
105 (前略)叚(假)器者,其事已及免,官輒
106 收其叚(假),弗亟收者有罪。●其叚(假)者死亡、有罪毋(無)責也,吏代賞(償)。毋擅叚(假)公器,者(諸)擅叚(假)公器者有罪。(後略)
器を假るる者、その事已み、及び免ぜられば、官、輒ちに其の假るるを收めよ。亟やかに(これを)收めざる者は、罪有らん。●其れ假るる者死亡し、罪有るも責むる無きや、吏、代りて償う。擅(ほしいまま)に公器を假すなかれ。諸(およ)そ擅に公器を假す者は罪有らん。
と、『二年律令』簡078-079には、
078 諸有叚(假)於縣道官,事已叚(假)當歸。弗歸,盈二十日,以私自叚(假)律論。其叚(假)別在它所,有物故毋(無)道歸叚(假)者,自言在
079 所縣道官,縣道官以書告叚(假)在所縣道官收之。其不自言,盈廿日,亦以私自假律論。(後略)
諸(およ)そ縣道官より假るる有るや、事已まば假るる(もの)は當(まさ)に歸(かえ)すべし。(これを)歸さざること、二十日に盈たば、私(ひそ)かに自ら假るるの律を以て論ず。其の假るる(もの)別ちて它所に在り、物故有り道(よ)りて假るるを歸す無き者は、自ら在る所の縣道官に言い、縣道官、書を以て假るる(もの)の在る所の縣道官に告げてこれを收めしむ。其れ自ら言わず、二廿日に盈たば、亦た私(ひそ)かに自ら假るるの律を以て論ず。
というように、公器と公用の關係が明確に現れる。8-1560では、「養」(炊事係)という公的使用人の支給も「假」と表現される。
本簡では、啓陽丞の歐が、遷陵へと配屬替えとなり、赴任の途中傳車等を借用したようである。赴任後、車などを啓陽縣に返還するすべがなく、『二年律令』のいう「無道歸假者」に相當すると考えられるが、然るべき返還手續を怠ったため、賠償責任を追及されたのであろうか。
[vi] 徙、うつる・うつすこと、ここでは、人事上の配屬替えを指す。『説文解字』辵部には
𨑭(徙),迻也。
徙、迻(うつ)す也。
という。『秦律十八種』には、次のように、人事異動に伴う監査を規定する。
162 實官佐、史柀(頗)免、徙,官嗇夫必與去者效代者。節(卽)官嗇夫免而效,不備,代者【與】居吏坐之。故吏弗效,新吏
163 居之未盈歲,去者與居吏坐之,新吏弗坐。其盈歲,雖弗效,新吏與居吏坐之,去者弗坐,它如律。 效
實官の佐・史頗(や)や免ぜられ、徙されば、官嗇夫、必ず去る者と與(とも)に代わる者に效す。卽(も)し官嗇夫免じて效したらば、備らざるは、代わる者、居吏と與(とも)に之れに坐す。故吏(これを)效せず、新吏、之れに居すること未だ歲に盈たずんば、去る者、居吏と與(とも)に之れに坐し、新吏(これに)坐せず。其れ歲に盈たば、(これを)效せずと雖も、新吏、居吏と與(とも)に之れに坐し、去る者(これに)坐せず。它は律が如くせよ。 效
また、赴任に伴う驛傳の使用は、『二年律令』の次の規定に見える。
213 郡守、二千石官、縣道官言邊變事急者,及吏遷徙、新爲官屬尉、佐以上毋(無)乘馬者,皆得爲
214 駕傳。
郡守・二千石官・縣道官、邊變事の急ぐを言う者、及び吏の遷徙し、新しく官屬の尉・佐以上と爲り乘馬無き者は、皆な爲に傳に駕するを得。
[vii] 寫、初出。(券書について「爲券」と「寫」の違いがあること、本簡のいう「責券」が「写し」であることに言及。)
[viii] 廏守の信成は、啓陽縣の廏守を務めており、同縣丞の歐が洞庭郡に轉勤する際に生じた債權を巡って以前にも啓陽縣廷を通じて洞庭郡に債權取立を依賴したが、對應してもらえなかったため再度取立依賴を送った。本文書は、簡9-0001-0012の陽陵縣司空文書と同樣に、洞庭郡經由で遷陵縣に屆いたと推定される。
本簡の左側は、人爲的に裁斷されたが、陽陵縣司空文書から推測するに、正面左側から背面右側にかけて、啓陽縣長官が洞庭郡に宛てた「敢言之」類文書が二通と洞庭郡の「謂」類文書が一通記されていた。送達記錄が通常記される背面の左側は現存しているが、陽陵縣司空文書と同樣に、何通かの文書が纏めて發送されたため最初から個別文書には送達記錄が記されなかったと考えられる。陽陵縣司空文書を基に文書の書式を復元すると、次の通りとなる。
文書層次 |
釋文 |
||
添付書類③ (啓陵縣廄官上行文書) |
開頭詞 |
【二十】八年三月庚子朔丙寅,廏守信成敢言之: |
|
正文 |
資料依據 |
前日言: |
|
啓陽丞歐叚(假)啓陽傳車乘及具,【......】徙洞庭郡。未智(知)署縣。 寫責券一牒,車(?)□□□上,謁言洞庭【......。】 |
|||
主文 |
【至今未報,......,謁言洞庭……。】 |
||
結尾詞 |
【敢言之。】 |
||
附記 |
收發記録 |
‐(?) |
|
作成記録 |
袪(きょ)手す。 |
||
添付書類② (啓陵縣上行文書) |
開頭詞 |
【某月某日,啓陽(守丞)某敢言之:】 |
|
主文 |
【寫上。】 |
||
附記 |
【謁報,報署某發。】 |
||
結尾詞 |
【敢言之。】 |
||
附記 |
作成記録 |
【某手。】 |
|
收發記録 |
‐(?) |
文書本體 |
開頭詞 |
【某年某月某日,洞庭(假尉)某謂遷陵丞:】 |
|
正文 |
資料依據 |
【啓陵卒署遷陵。】 |
|
主文 |
【其以律令從事。】 【報之。】 |
||
附記 |
【當騰,騰。】 |
||
結尾詞 |
‐(?) |
||
附記 |
收發記録 |
‐ |
|
作成記録 |
某手。 |
なお、簡9-0001-9-0012には送達記錄がない一方、正背ともに「反印文」と稱せられる鏡文字が確認される。それは、十二通の文書が「束」として重ねられ、「囊」等に收納した形で送達されたことを推察させる。送達記錄は、「囊」等に付けられた封緘簡牘に記されたのであろう。