文書構造 |
讀み下し文 |
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添付書類 |
【眞書】 |
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文書本體 |
書出 |
三十一年(216)七月辛亥朔甲子(14)、司空守の諯(せん)、敢えて之れを言う。 |
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本文 |
状況説明 |
今、 |
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初、縣卒と爲りて𤺊(せい)死し及び槥(ひつぎ)[i]を傳うる[ii]の書を以て案致する[iii]も此の人名に應ずる[iv]者なければ、眞書[v]を上す。 |
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附記 |
書、癸亥(13)到り、甲子(14)起ち、留まること一日[vi]。案致問治して留まるなり。 |
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書止 |
敢えて之れを言う。 |
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附記 |
集配記録 |
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作成記録 |
章手す。 |
[i] 槥、小さく簡略な棺。『漢書』高帝紀下には、
(八年)十一月,令士卒從軍死者爲槥,歸其縣,縣給衣衾棺葬具,祠以少牢,長吏視葬。
とあり、師古注には、
小棺也,今謂之櫝。
小棺なり、今、之れを櫝と謂う。
という應劭の説を引いている。また、同注所引の臣瓚説が。
初以槥致其尸於家,縣官更給棺衣更斂之也。金布令曰「不幸死,死所爲櫝,傳歸所居縣,賜以衣棺」也
初め槥を以て其の尸を家に致し、縣官更に棺・衣を給して之れを更斂する也。金布令には、「不幸にして死せば、死する所櫝を爲(おさ)め、傳えて居する所の縣に歸し、賜うに衣・棺を以てす」と曰う也
とするように、卒らが任地で亡くなった場合、槥に遺体を納めて家まで送り届けることになっている。
嶽麓秦簡(肆)と「二年律令」には関連法規、西北漢簡には移送の実例あり→追加すべし
[ii] 傳、傳える・遞送する、縣や燧等の公的機關を傳って、文書、物品や人を順次移送すること、つまり公的經路による物品輸送や人柄移送。初出(簡8-2006+8-0666の「伝衣用」にも留意)
[iii] 案致、案は審査、詳しく調べる意、致は、いたす義から轉じて極める・盡くす意、案致は審査して確定すること。『國語』吳語には、
飮食不致味。
飮食は、味を致(きわ)めず。
といい、韋昭は
致,極也。
致、極むる也。
と注釋する。『論語』子張に
君子學以致其道。
君子、學びて以て其の道を致(きわ)む。
というのに對して、劉寶楠『論語正義』
致者,極也,盡也。
致は、極むる也、盡くす也。
と解釋する。『二年律令』には、
219 縣道官有請而當爲律令者,各請屬所二千石官,二千石官上相國、御史,相國、御史案致,當請請之。毋得徑請。徑請者,
220 罰金四两。
縣道官、請うてまさに律令と爲すべき者有らば、各々屬する所の二千石官に請い、二千石官、相國・御史に上(のぼ)し、相國・御史、案致し、まさに(以聞して皇帝に)請うべきはこれを請う。徑(たち)ちに請うを得るなかれ。徑ちに請う者は、金を罰すること四两。
という用例が見える。
なお、「案」の古い訓詁は「几(机)」を中心にしており、審査・考査を表す「考」・「察」・「驗」等の訓詁は唐以降の字書に初めて現れる。「几(机)」に竝べて詳しく視ることから轉じて審査・考査という義が生じたという胡三省の解釋が妥當なように思われる。『資治通鑑』梁紀十一の「留心几案」に對し、胡三省注は
案,亦几屬,應文書皆陳於几案而省覽之。
案も亦た几の屬なり。應(あら)ゆる文書は皆な几案に陳(つら)ねて之れを省覽す。
という。『淮南子』時則の高誘注に見える「視」という訓詁を踏まえたものと考えられる。
一方、淸代の學者には、桂馥『說文解字義證』手部・『經詞衍釋』卷二・王念孫『讀書雜志』戰國策第二趙策等に見られるように、「案」と「按」を相通じる字と捉える考え方が廣く浸透しているようであり、それに根據を與えるかのごとく、顏師古注には、「按」を「致其罪」(『漢書』趙廣漢傳)と解釋しているが、それは必ずしも正確とは言えない。趙廣漢傳には、同じく廣漢の職權濫用を巡る事案について相前後して
廣漢使長安丞按賢。
廣漢、長安丞を使して賢を按ぜしむ。
と、
事下丞相、御史,案驗甚急。
事、丞相・御史に下され、案驗すること甚だ急なり。
というように、「按」と「案」とが使い分けられる現象が確認される。文脈から判斷すると、「按賢」は、その後續文章に「劾」等の手續が取られることから、顏師古注と違って、「男子蘇賢」の身柄を抑えることを表し、「案驗」の「案」は調べる意に捉えられよう。兩字が班固の文字遣いを反映していると假定すれば、少なくとも漢代にはこの兩字は二つの相互に無關係な單語を表記することになる。字義からしても、「案」が「机」から轉じて(机に竝べて)よく視る意なのに對して、「按」は、「下」(『説文解字』手部)・「抑」(『爾雅』釋詁下郭璞)・「止」(『詩經毛傳』大雅・皇矣)という訓詁に現れる「おさえる」義を本義としており、本來兩者は決して字義の近いものではない。兩者が接近する經路は、恐らく二通りに想定できるが、何れも時代が唐代を遡らず、秦漢時代の字義を短絡する根據にはならない。一つには、「抑える」義から、「拠(よ)る」(……)・「憑(よ)る」(……)・「依(よ)る」轉義が生じ、それがさらに日本語の「勘所をおさえる」の如く、要點を理解・把握する方向に發展し、現代中國語にも依然として使われる「按(案)語」のように「案」と接近する語義變遷が考えられる。例えば、胡三省が『資治通鑑』齊紀八の注には
案,文案也。藏之以爲據。
案、文案なり。之を藏して以て據(よりどころ)と爲す。
と、唐紀二十の注には
案,考也,據也。
案、考うる(もの)也、據(よりどころ)也。
というように、「案」を「據」義で説明とするところに、このような接近の痕跡が窺える。今一つには、司法關係の特殊用語としては、事實關係等を調べるために尋問を行うという「案問」等の語が存在するが、「案問」を行うためには、どうしても身柄を確保する必要があるため、それを身柄を押さえて取り調べるという意味の「按問」に置き換えても實質的な變化は生じない。前述の趙廣漢傳の顏師古注から推測するに、司法關連の「按」がもはや身柄の確保ではなく、「案」と同樣搜査等の意味に捉えていたようであるが、それは、秦漢時代の「按」に對する解釋としては不正確で、むしろ語源において異なる「案」と「按」とが混同される現象と捉えるべきように思われる。
[iv] 應、あたる・該當する。初出
[v] 眞書、初出。
眞書
送付されてきた文書の原本。8-0060+8-0656+8-0748+8-0665では、遷陵縣から債務の取り立てを依頼された僰道の「都府守」が、債務者の妻が返済不能であると解答したため、取り立てられないとして、「眞書」を僰道に返送している。この「眞書」は遷陵縣から僰道に送られた校券であろう。本簡では「傳槥書」を指し、縣卒𤺊の死亡について、該当者がいないため返送されたことになる。
「真書」の用例は里耶秦簡以外には見えないが、「真」の字義が同じ「真罪」等の熟語はある。→真の訓詁から丁寧に語義を説明し、類義語として「真某」に言及すべし。
[vi] この一文は、「秦律十八種」行書律184簡と対応するので、案語で説明すべし。(8-1524には伝書の注を作ることになっているが、それとの整合性に留意)