讀下:8-0644a=b

文書構造

讀み下し文

文書本體

書出

敬いて之れを問う[i]

本文

状況説明

吏、徒に令して器を守せしめて之れを失わば、徒、當(まさ)に獨り負うべし。

●日、以て責むる[ii]に足るも、吏、これを責めず、負う者死・亡せば、吏代わりて償を負う。

用件

徒の守する者、往きて戍せば、何(いかん)ぞや。敬訊して之れに負わしむるは、可なるや不可なるや。その律令は、何と云う。

附記

謁うらくは、報ぜよ。

[i] 敬、粛(つつ)しむ、恭(うやうや)しくかしこまること、轉じて愼む、缺け目なく氣を配ること。『説文解字』茍部には、「肅」、『玉篇』茍部には、「恭」・「愼」と訓詁する。『論語』には、

門人不敬子路。

門人、子路を敬わず。

という。『尚書』康誥には、

敬明乃罰。

乃(なんじ)の罰を敬明せよ。

というのに對し、孔傳は

凡行刑罰,汝必敬明之,欲其重愼

凡そ刑罰を行うに、汝、必ず之れを敬明せよ。その重愼なるを欲すればなり。

と注釋する。本簡正面の「敬」は、受信者に對する尊敬、背面の「敬」は、缺け目のないように取り調べを愼重に行うことを表す。なお、取り調べの対象は、徒が兵役に徴収される前にその賠償責任債務を取り立てなかった吏である。

「敬問之」については、一説に書信用語ではないかという意見もあるが、公文書でも、簡8-0769のように、發信者が「問」の形式で直接に受信者に問い掛けて一定の事柄について尋ねる事例があり、また受信者に敬意を表す点においては、発信形式の「敬」が「敢言之」の「敢」と変わりがないことからすれば、本簡は、樣式論的には、年月日等を省略した簡略書式の公文書に分類すべきように思われる。「敬問」という発信形式が他に類例を見ないので、暫く「敢言之」類の特殊書式の後ろに附しておく。なお、機能論的には、この文書が所謂公文書的書信に近い役割を果たした可能性は否定できない。

[ii] 責、初出。(注の末尾には、「日足以責」と債権回収を怠った吏の賠償責任に関する案語を附すべし。また本文書では、兵役(戍)のために債権が回収不能となったという特殊な状況について処理方法を尋ねているが、戍に関する注は他に既にあり、本簡について新たに注を加えないので、死・亡による回収不能と兵役による回収不能の関係にも言及すべし)