讀下:8-0512

文書構造

讀み下し文

文書本體

書出

【某年某月某日朔某日、某職某人、敢えて之れを言う。】

本文

状況説明

【……】

【……某人を】捕え[i]、傳えて[ii][iii]が治所に詣(いた)せ。[iv]

用件

●之れを問うに、

【……】卻【……。】

書止

【敢えて之れを言う。】

附記

集配記録

【……。】

作成記録

【某手す。】

[i] 捕、とらえる・捕獲する、ここでは逮捕の意。初出(動物の捕獲という意味では、簡8-0652+8-0067と8-1559に既出だが、注釈するほどのこともなさそう)

[ii] 傳、公的經路による物品輸送や人柄移送(簡8-0648注?参照)、ここでは被疑者もしくは参考人の押送・護送を指す。

[iii] 己、人名、封檢に見える覆獄沅陵獄佐の己と同じ人物と推測される。8-0255には、

覆獄沅陵獄佐己治所。遷陵傳。洞庭。

覆獄の沅陵獄佐の己が治所。遷陵、傳う。洞庭より。

という。他に8-0265・8-0492・8-1729・8-2039にも覆獄沅陵獄佐の己がみえており、8-2039の記載からは、遷陵縣の傳舍に一時執務していたと推定される。本簡(8-0512)記載の文書は、縣廷からの轉送を受けた鄕官が覆獄獄佐の文書を根據史料として引用しつつ縣廷に、對應の報告を行う上申文書と推測される。「己 が治所に詣せ」までは、轉送された獄佐己の指示の引用で、「●之れを問うに」以下は、鄕官における調査對應の報告であろう。

[iv] 「捕」・「傳」・「詣」は、同一の被疑者もしくは參考人を共通の目的語とする動詞であり、この「連動共賓」構造の目的語は殘缺部分に記されていたと考えられる。「捕」は、逮捕(本簡注?參照)、「傳」は、被疑者もしくは參考人の護送(本簡?參照)を指し、「詣」は、いたす意で、被疑者等の身柄を官署に送り屆けることを表す(簡8-0660注?參照)。「詣」は簡8-0660注?に取り上げた『封診式』簡25や居延漢簡E.P.T68:31-E.P.T68:32の如く、護送の過程を含めていう場合もあるが、本簡のように「傳」と區別して用いる場合は、「傳」は順次移送すること、「詣」は、移送先に屆けることに力點が置かれる。

『史記』魏豹彭越列傳には、

於是漢王遣韓信擊虜豹於河東、傳詣滎陽、以豹國爲郡

是に於て、漢王、韓信を遣り擊ちて豹を河東に虜にし、傳えて滎陽に詣し、豹の國を以て郡と爲す

とある。「捕」に代えて「虜」が用いられるが、逮捕(もしくは捕獲)・護送・送致を倂記する構造は等しい。