讀下:8-0166a+8-0075a=8-0166b+8-0075b

文書構造

讀み下し文

文書本體

二十八年(219)十二月癸未(12)[i]、遷陵守丞の膻之(たんし)、此れを以て、追すること少内書[ii]が如くす。

附記

集配記録

甲申(13)、水下七刻、高里士伍の□、行(や)る。

作成記録

/犯手す。

添付書類②

文書本體

書出

七月辛亥(08)、少内守の公、敢えて之れを言う。

本文

状況説明

計、敢えて擅(ほしいまま)隤(のこ)す[iii]を得ず、令有り。

用件

遷陵已に定め、以て郪[iv]の少内が金錢計に付し[v]、二十七年(220)に計す[vi]。謁うらくは、郪の右□に告げよ。

「事、物故[vii]有り計に後る[viii]と雖も、校を上して以て遷陵に應ぜよ。校[ix]をして謬(あやま)らしむるなかれ。謬任は遷【陵】に在らず。【……。】」

これを用いず、來報せず。

書止

敢えて之れを言う。

附記

集配記録

/□(夜?)水下八刻、佐の氣、以て來る。/敞半(ひら)く[x]

癸未(12)、水下□刻、走の□、以て來る。/犯半(ひら)く。[xi]

作成記録

/氣手す。

【某手す。】

添付書類①

文書本体

書出

七月壬子(09)、遷陵守丞の膻之(たんし)、敢えて郪丞主に告ぐ。

用件

寫移す。

書止

敢えて之れを告ぐ。

附記

集配記録

/□(夜?)水下盡、佐の氣、旁(曹)に行(や)る。

作成記録

/敞手す。

[i] 秦始皇二十八年十二月は壬申朔で、癸未の日は十二日に当たる。

[ii] 少内書、少内の文書、つまり七月辛亥付の後續文書。七月辛亥の文書を受けて、遷陵縣は、七月壬子にすでに郪縣に文書を轉送したが、返答がなかったためか、年度を跨いで十二月癸未には、處理を督促した。

[iii] 隤、おちる・おとす義から轉じて、遺す・繰り延べる意。『説文解字』𨸏部に

隤,下隊也。

隤、下隊する也。

という。『二年律令』には

414     〼勿以爲䌛(徭)。市垣道橋,命市人不敬者爲之。縣弩春秋射各旬五日,以當䌛(徭)。戍有餘及少者,隤後年。興□□□

【……】以て徭と爲すなかれ。市が垣・道・橋は、市人の不敬なる者に命じてこれを爲(な)さしめよ。縣弩は春秋射ること各々旬五日、以て徭に當つ。戍の餘り有り及び少なき者は、後年に隤せ。興□□□

とあり、整理小組は

隤,《廣雅・釋詁一》:“下也。”隤後年,下推後年計算。

隤、『廣雅』釋詁一に「下す也」(とあり)。後年に隤すは、後年に下推して計算するなり。

と注釋する。嶽麓書院(肆)の律令簡には、次のような類例が見える。

253   䌛(徭)律曰:發䌛(徭),自不更以下䌛(徭)戍,自一日以上盡券書,及署于牒,將陽倍(背)事者亦署之,不從令及䌛(徭)不當

254   券書,券書之,貲鄕嗇夫、吏主者各一甲,丞、令、令史各一盾。䌛(徭)多員少員,穨(隤)計後年䌛(徭)戍數。(後略)

徭律に曰わく、徭を發するに、不更より以下、䌛(徭)戍す。一日より以上は盡く券もて書し、及び牒に署(しる)す。將陽し事に背く者も亦た之れを署す。令に從わず、及び徭の當(まさ)に券書すべからざるに、之れを券書せば、鄕嗇夫・吏の主する者を貲ること各々一甲、丞・令・令史各々一盾。徭、員より多く員より少なきは、計を後年の徭戍數に隤(のこ)す。

編聯には疑問なしとしないが、隤の用法は、本簡と變わりがない。

「計不得敢擅隤」とは、會計は無斷で(次年度に)繰り延べてはいけないという意味で、「有令」とあることから、法令の明文規定の一部であることが判る。

[iv] 郪、地名担当。

[v] 簡8-1023にも、「付郪少内金錢計」と記されており、本簡は、付け札の簡8-1023を付けて纏められた關連書類の一部という可能性が考えられる。

[vi] この一文は、一定の金錢について、遷陵縣の方では既に處理を確定させ(「定」、簡8-0144+8-0136注?參照)、二十七年度郪縣少内の「金錢計」に付(わた)したとして計上した(「付計」、簡8-1477+8-1141注?參照)という意味に解せられる。この會計處理の對處とされる金錢とは、例えば本來遷陵縣にて回收すべき債權を、債務者が郪縣に長期的に滯在したかその家族が郪縣に居住する等のため郪縣が代行して取り立て、郪縣の會計に組み入れたものである。遷陵縣における「付計」の處理に對應する形で、郪縣では「受計」の處理をした上で監査用の状況説明(「校」、簡8-1565注?參照)を提出する必要があるが、上計の際に矛盾が生じないように、遷陵縣の少内は、年度閒近の7月に、縣廷に對して、郪縣に對應を督促するように依賴した。

なお、取立代行に關わる記載は、また簡8-0677・8-0060+8-0656+8-0748+8-0665・8-0063・9-0001-9-0012等を參照。

[vii] 物故、事故、正常な進行を妨げる不慮の事態。『墨子』號令には、

卽有物故,鼓,吏至而止,夜以火指。

卽(も)し物故有らば、鼓(つづみう)ち、吏至りて止み、夜は火を以て指(しめ)す。

といい、孫詒讓『墨子閒詁』は、

物故,猶言事故,言有事故則擊鼓也。

物故、猶(な)お事故を言うがごとし。事故有らば則ち鼓を擊つを言う也。

と解釋する。『二年律令』には、

078   諸有叚(假)於縣道官,事已叚(假)當歸,弗歸,盈廿(二十)日,以私自叚(假)律論。其叚(假)別在它所,有物故毋(無)道歸叚(假)者,自言在

079   所縣道官,縣道官以書告叚(假)在所縣道官收之。其不自言,盈廿(二十)日,亦以私自假律論。(後略)

諸て縣道官より假るる有り、事已み、假りたる(もの)は當(まさ)に歸すべきに、(これを)歸さず、二十日に盈ちば、私自に假すの律を以て論ず。其の假るる(人)、別ちて它所に在り,物故有りて假るるを歸すの道(すべ)無き者は、自ら在る所の縣道官に言い、縣道官、書を以て假るる(もの)の在所の縣道官に告げて之れを收む。其れ自ら言わず、二十日に盈ちば、亦た私自に假すの律を以て論ず。

という。

[viii] 後計、計に後れる、つまり當年度の會計處理に閒に合わないという意味。

[ix] 前後の二つの「校」字は意味が異なる。前者が監査のために上級機關に提出される状況説明を指すのに對し、後者は、上級機關の監査手續を表す。

[x] 少内文書の末尾に續けて記されている送達記錄は、七月辛亥に少内が初めて縣廷に依賴した時には文書の背面に、再度の依賴の時には、文書の末尾に移動して書寫されたと推測される。

[xi] 本簡の背面左上に見える送達記錄は、少内が縣廷に再度依賴した時に記されたものと推測される。文書は、二十八年十二月癸未の當日もしくは前日頃、「敢言之」類特殊書式⑤の「寫上」型という樣式で作成されたが、縣廷が郪縣に對する「追」類文書を作成した時に、その中の添付書類、つまり(二十七年)七月辛亥の文書のみ謄寫し、十二月の文書本體を省略した模樣である。