文書構造 |
讀み下し文 |
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文書本體 |
書出 |
【……】□朔戊午、遷陵丞の遷、畜官に告ぐ。 |
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本文 |
状況説明 |
僕、(以て)令して【……せしむるに】足るに、【……】□史(の名?)を書するなし[i]。畜官が課もまた未だ上さず。 |
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用件 |
書到らば、亟(すみ)やかに日【夜……】課【を上せ[ii]。】 守府が事已みて、復た官事を視(み)ること故(もと)の如くす(べき)[iii]に、子、これを【……】事【……】せず、その故を以て上さずんば、且(まさ)に子を致し劾して[iv]論せん。 |
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書止 |
它は【書を】承けて【從事すること律令が如くせよ。】 |
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附記 |
送達記錄 |
【某月某日某時、某人、(某處に)行る。】 |
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作成記錄 |
就手す。 |
[i] 一説には、『拾遺記』周穆王に
穆王(中略)有書史十人,記其所行之地。
穆王、書史十人有り、其の行く所の地を記す。
という用例に基づいて、「書史」を文書のことを掌る吏員と書史と捉えるが、「書史」と「史」の區別も、「書史」と畜官との關連性も判然としないので、「書」を取り敢えず動詞として讀んでみた。「毋書史」とは、文書作成における何らかの不備を指摘した表現と推測される。
[ii] 夜字と上字は、簡8-1523「亟日夜上」に基づいて補った。日夜は、晝夜を問わすの意。日夜はさらに簡J1⑯0005・0006にも
令人日夜端行。
人に令して日夜端行せしめよ。
という用例が確認される。
[iii] 視事は、……の意(簡8-0163注?參照)、官事は、畜官の仕事・業務。この一文は、太守府關係の仕事が終了したので、元通り畜官本來の業務に從事せよという意味。
[iv] 劾、犯罪の摘發形式の一つ。一般的な摘發が「告」なのに對して、官員が職權で以て行う摘發は「劾」と稱せられる。『二年律令』に
113 治獄者,各以其告劾治之。敢放訊杜雅,求其它罪,及人毋(無)告劾而擅覆治之,皆以鞫獄故不直論。
獄を治むる者、各々その告・劾を以てこれを治めよ。敢て放(ほしいまま)に杜雅を訊ねて、その它の罪を求め、及び人の告・劾するなきも擅(ほしいまま)にこれを覆治するは、皆な鞫獄するに故(ことさら)直ならざるを以て論ず。
とあるように、合法的な司法手續は、「告」か「劾」によってが開始される。傳世文獻と出土資料を通じて、官員が一般人の竝んで告の主體になり得るのに對して非官員が劾の主體となる事例が檢出できないことから、兩者の違いが、官員か非官員というよりも、職權の有無にあることが判る。さらに、嶽麓秦簡(肆)の律例簡牘には
147 䌛(徭)律曰:興䌛(徭)及車牛[及興䌛(徭)]而不當者及擅倳(事)人屬弟子、人復復子、小敖童、弩,鄕嗇夫吏主者,貲
148 各二甲,尉、尉史、士吏、丞、令、令史見及或告而弗劾,與同辠(罪)。弗見莫告,貲各一甲。(後略)
徭律に曰わく、徭及び車牛を興して當ならざる者、及び擅(ほしいまま)人屬弟子・人復復子・小敖童・弩を事うは、鄕嗇夫・吏の主する者、貲(はか)ること各々二甲。尉・尉史・士吏・丞・令・令史、見て及び告ぐる或るに(これを)劾せざるは、與に罪を同じくす。(これを)見ず告ぐる莫きは、貲(はか)ること各々一甲。
というように、徭役徵發における不正に關して、職權で以て摘發する義務を負う官員として、尉から令史に至る六つの官職が擧げられる。劾が自らの知見と第三者からの告發とに基づき得ることも、この律文から讀み取れる。