文書構造 |
讀み下し文 |
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添付書類④ |
【校券】 |
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添付書類②(僰道都府守上行文書) |
文書本體 |
書出 |
(前218)[i]十二月戊寅(13日)、都府守の胥、敢えて之れを言う。 |
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状況説明 |
遷陵丞の膻(たん)、曰わく、 |
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少内の巸(い)、言わく、 |
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宂佐[ii]公士の僰道(ぼくどう)西里の亭、貲三甲[iii]あり、錢四千三十二たり。自ら言うに、家、能(よ)く入る。校券[iv]一を爲(つく)り,上(のぼ)す。謁うらくは、僰道に告げて、責めを受けしめよ[v]。 |
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追有り、追に曰わく、 |
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二十八年(前219)に計(かぞ)う[vi]。 |
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用件 |
【今】 |
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亭が妻の胥亡を責むるに、胥亡曰わく、 |
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貧にして、これを入るる能(あた)わず。 |
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謁うらくは、亭に令して署する所に居せしめよ[vii]。眞書を上ぼせば、遷【陵】に還さんことを謁う[viii]。僰道、これを計に受けず[ix]。 |
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書止 |
敢えて之れを言う。 |
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附記 |
送達記錄 |
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作成記錄 |
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添付書類① (僰道平行文書) |
文書本體 |
書出 |
十二月己卯(14日)、僰道の𨛭(しょ)、敢えて遷陵丞主に告ぐ。 |
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用件 |
寫して【移す。……律令を以て從】[xii]事すべし。 |
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書止 |
敢えて主に告ぐ。 |
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附記 |
送達記錄 |
六月乙亥(13日)、水十一刻、刻下二、佐の同、以て來る。/元半(ひら)く。〼 |
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作成記錄 |
/冰手す。 |
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遷陵縣下行文書 |
書出 |
六月庚辰(18日)、遷陵丞の昌(しょう)、少内主に告ぐ。 |
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用件/書止 |
律令を以て從【事せよ。】 |
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附記 |
送達記錄 |
/六月庚辰(18日)、水十一刻、刻下六、守府の快、少内に行(や)る。{筆跡の異同は判然とせず。} |
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作成記錄 |
【□】手す。 |
[i] 朔日からは、28年も29年もその可能性はあるが、文脈からして二十九年の可能性が高いと思われる。(籾山レジュメを参照)
[ii] 宂佐、宂は恆常的勤務の意(簡8-2006+8-0666注?参照)、宂佐は、初出。官職名担当。
[iii] 貲三甲、貲は、「はかる」義から轉じて、輕犯罪を對象とした秦律特有の制裁形式(簡8-1566注?および簡8-2013+8-0198+8-0213注?參照)、ここでは財產刑を指す。甲は、「よろい」の義から轉じて、原義が「たて」の盾(じゅん)とともに財產刑の輕重を表す。盾が錢三百八十四なのに對して、甲は錢千三百四十四を意味する。錢財產刑の貲には、合わせて「貲一盾」・「貲一甲」・「貲二甲」という三つの等級がある。睡虎地秦簡には「貲二盾」の用例が一つ見えることから、本來は四等級であったとする説もある。本簡に見える「三甲」は、貲の等級ではなく、簡8-0300や8-0565に見える「十四甲」・「六甲」・「四甲」と同樣に、累積罰金額を表す表現と考えられる。貲三甲はすなわち罰金錢四千三十二に相當する。
[iv] 校券、校は監査用の状況説明(簡8-1565注?參照)、券は、刻齒を有するという形態上の特徵から證明文書簡牘を表す語(簡8-0677注?參照)、校券は、券書の形態を持った監査用の状況説明。本簡では、佐の亭に科せられる貲三甲という公的債權を證明する書類、もしくはその公的債權を僰道に讓り渡したとして遷陵縣で計上した事實(「付計」)を證明する書類を指すが、證明内容が金錢に關わるため、券書という信憑性のより高い形態が選擇されたと考えられる。
[v] 責は、せめる・取り立てる義から轉じて、債務・債權の意(簡?注?參照)、受は、僰道が遷陵縣から宂佐の亭に對して有する公的債權を讓り受けることを指すが、縣閒の債權の讓渡には、後續の文章で「受責」が「受計」と言い換えられるごとく、「受計」・「付計」(簡8-1477+8-1141注?參照)という會計處理が伴うほか、『秦律十八種』簡077-079に
077 百姓叚(假)公器及有責未賞(償),其日◇(足)以收責之,而弗收責,其人死亡,(後略)
079 (前略)令其官嗇夫及吏主者代賞(償)之。 金布
百姓(ひゃくせい)、公器を假り、及び責め有りて未だ償(つぐな)わず、その日以てこれを收責するに足るに、收責せず、その人死亡する(もの)は、その官嗇夫及び吏の主(つかさど)る者をしてこれを代償せしむ。 金布。
と引用されている金布律の規定から判るように、債權を速やかに取り立てる義務も付隨する。言い換えれば、「受責」の二字は、次の三つの行爲を要約して表した表現と考えられる。つまり、第一に、遷陵縣から債權を受けること、第二に、亭の家族に對して債權を取り立てること、第三に、遷陵縣の會計より、亭の貲三甲という會計項目を、僰道の會計に受けて計上すること。簡9-0001から9-0012までの十二通の陽陵縣の司空文書には、陽陵縣から遷陵縣へと同樣な債權の讓渡が指示されているが、本簡の「受責」に該當する箇所は、十一通では
責以受陽陵司空
責めて以て陽陵司空(の計)より受く。
と、殘りの一通では、
受責以受陽陵司空
責めを受けて以て陽陵司空(の計)より受く。(9-0009)
と表現される。つまり、前十一通では、債權の取り立てと會計處理、殘りの一通では、債權の讓渡と會計處理のみが明言されることになる。
なお、一説には、「受責」は、「受けて責む」と讀み、「受」は債權を讓り受けること、「責」は債務者に對して債權を取り立てることを指すというが、この説に從えば、簡9-0009の「受責以受陽陵司空」は、縣閒の債權讓渡に伴う處理手續を最も正確に言い表した表現ということとなる。つまり、「受けて責め以て陽陵司空より受く」というように、遷陵縣は、①陽陵縣から債權を讓り受けて、②債務者に對して取り立てを實施し、③陽陵縣の司空會計から關連項目を遷陵縣の會計に受けて計上する。
[vi] 計二十八年は、二十八年度の會計に計上する意。閒に僰道の問い合わせがあった可能性も考えられるが、計二十八年と内容とする遷陵縣の追文書は、簡8-1477+8-1141や8-0063や9-0003等に見える「計年」に關する問い合わせに答えるものである。
[vii] ここでは、居は、居貲、つまり財產刑貲三甲によって生じた債務を弁済するために官府等に居りて勞役に從事することを指す(簡8-1566注?參照)。署する所は、亭の配屬先(簡8-1459+8-1293+8-1466注?參照)、つまり遷陵縣を指す。本籍地の僰道において家族に對して債務を取り立てる試みが失敗に終わったので、僰道は再び事案を配屬先の遷陵縣に戾して、居貲という勞役を通じて強制的に債權回收を圖るように依賴する。
[viii] 眞書は、原本の意(簡8-0648注?參照)、ここでは、遷陵縣から送付されてきた券書を指すと考えられる。現場の都府はそれを上級機關の僰道に上呈し、遷陵縣に返却するよう依賴する。
[ix] 受計は、他の會計より受けたものとして計上する意(簡8-1477+8-1141注?參照)、ここでは、亭の家族から取り立てた錢四千三十二を、遷陵縣の會計より受けたものとして計上することをいう。實際は取立不能となったので、この一文は、もと予定されていたこうした會計處理を行わないことを念を押して表明している。
なお、文法的に注意すべきは、「弗」という否定詞によって、「受計」を「計を受く」ではなく「計に受く」と讀むべきことが判る。「弗」は、「之」という目的語を内容するとされるが、ここでは、それは、取り立てる予定となっていた錢四千三十二を指す。元の計畫と違って、僰道はこの金錢を遷陵縣の會計から僰道の會計に受けない、という。
[x] 䜢、謾字の異體字、あざむく意。案ずるに、䜢という形の字は、傳世文獻に見えず、字書では、『廣韻』阮韻に
䜢,䜢搏,很戾。
䜢、䜢搏、很戾なり。
というように、凶暴の意味に捉えられているが、それは、本簡および『奏讞書』簡119に見える䜢形の字とは、同形ながら、明らかに異なる語を表記する字である。本簡および『奏讞書』簡119の「䜢」字は、あざむく意で、謾字の異體字と推定される。䜢と謾の字形關係を考えるに、兩字の聲符である「憲」と「曼」の上方部分は、『説文解字』によれば、それぞれ「从目,害省聲」(卽ち「◇」形)と「从冒聲」とに分析できるが、秦漢時代には、「◇」形と「冒」形とは混淆される傾向にあり、字形だけでは明確に區別できない。そのため、本簡の䜢形の字は、「◇」と隸定して、「慢省聲」に從うと分析することができる。さらに、謾字が、「曼聲」から「慢省聲」に變化した背景には、憲字と曼字の上古音が曉母元部と明母元部とで極めて近いという事情があり、書き手によって、謾字を「憲聲」に從う字と理解していた可能性も排除できない。
なお、本注は李家浩「先秦古文字與漢魏以來俗字」(中國語言學第6 輯、濟南、2012 年。同『安徽大學漢語言文字硏究叢書·李家浩卷』所收、合肥、2013 年)および劉樂賢「秦漢行政文書中的“謾”字及相關問題」(香港中文大學歷史系中國歷史硏究中心等編『簡牘與戰國秦漢歷史:中國簡帛學國際論壇2016論文集』、2016年)を參照して執筆した。
[xi] 「當論論」は、「當騰騰」(簡8-1517注?參照)と文法構造を同じくし、何れも「論」もしくは「騰」の法的要件を滿たせば「論」もしくは「騰」をするようにという指示。本案においては、亭が意圖的に當局を欺いて債務の返濟を免れようとしたのか、それとも經濟狀況の變化のため本籍地での取立が不能に終わったのかが未詳なので、それを調べた上で、論ずべきか否か、つまり亭の刑事的責任を問うべきか否かを判斷することになる。
[xii] 残欠部分の推定文字数ととも補填根拠を明記すべし!