讂,告示などを通じて情報提供を呼び掛けて、人や物を探し求める行為、およびそれに用いられる文書。文書は簡9-2315等のように「讂書」とも表現される。『説文解字』言部では、
𧭦(讂),流言也。从言、敻聲。
讂、流言なり。言に从い、敻の聲。
というが、𥄎部にみられる
𢿌(敻),營求也
敻、營求する也
という訓詁は、『広雅』釈詁三では、
讂,求也
讂、求むる也
というように、讂字の訓詁として踏襲される。張家山漢簡『奏讞書』事案22では、簡214~215に被疑者に関する情報提供を一般民衆に呼びかける行為を「讂問黔首」と表現しており、里耶秦簡9-2326では笥に保管される讂書について、「當布求(まさに布(し)いて求むべし)」と形容していることから、告示を通じて求める意味が確認される。張家山漢簡『二年律令』簡によって伝えられる水上事故に関わる法令では、
430 (前略)不幸流,或能產拯一人,購金二两。拯死者,購一两。不智(知)何人,○貍而
431 讂之。(後略)
と、身分不明な溺死者を埋蔵した上「讂」という手続をとるように定められているが、告示を通じて情報提供を呼びかけて身元を確定する意味に解せられよう。睡虎地秦簡『封診式』には、文書の告示を通じて首(こうべ)を識別する協力者を探し求めることが次のように記されており、この手法で情報提供を呼び掛けることが日々の文書行政において頻繁に行われていたことを印象付ける。
036 類劍迹;其頭所不齊○○然。以書讂首曰:「有失伍及𦳊(遲)不來者,遣來識戲次。」
讂の手続に関しては、嶽麓秦簡(伍)によって伝えられる従人に関わる秦律が参考になる。「讂(=讂書)」が県道官に移送され、各地の県道官がそれに従って被指名者を探し求める。里耶秦簡9-2315は讂書が県廷から貮春郷に送付され実際に関連手続が行われた証拠である。文脈によって「讂」は「讂求」「讂捕」「讂問」等の熟語を形成する。
讂や讂書等に関する語釈については以下の文献が参考になる。まだ正確な各語釈や関連簡の注釈に反映されていないので、今後然るべき点を反映すべし
馬怡:《里耶秦簡選校(連載二)》,簡帛網2005年11月18日http://www.bsm.org.cn/?qinjian/4322.html
石洋《論里耶秦簡中的幾份通緝文書》(《簡帛研究二〇一九(春夏卷)》)
歐揚「張家山《奏讞書》案例二二之謙、讂制小考」
謝坤「《里耶秦簡(貳)》札記(一)」(http://www.bsm.org.cn/?qinjian/7840.html)
何有祖「里耶秦簡所見通緝類文書新探」http://www.bsm.org.cn/?qinjian/7463.html
何有祖「《里耶秦簡“讂曹”、“讂書”解》」(《出土文献》第13輯. 2018,(02))