逮、遝とも書き、およぶの意。他動詞としては、およぼす、とどかせる意から轉じて、人を某處に至らしめる、つまり呼び出す・召喚する意。
『説文解字』辵部には、
と言い、『方言』には、
と言い、『爾雅』釋言には、
と言う。また、『説文解字』辵部はそれぞれ遝と䢔(およぶ)」とが互訓となっている。傳世文獻では、多く「逮」に作り、『爾雅』釋言・『説文解字』辵部や諸種の鄭玄注・高誘注に逮字の「及」訓が見える。唐代以降の訓詁では、逮捕を意味する「捕」と混同される傾向が生じるが、『漢書』常山憲王劉舜傳(卷53)では、
というように、「逮」と「捕」とを明確に區別している。さらに、『資治通鑑』漢紀四(卷12)の
に對する胡三省注引用の異説でも、
というように、「逮」(召喚)と「捕」(逮捕)の違いが明言される。逮字は呼び出し、つまり召喚に限定して解釋するのが正しかろう。出土資料では、同じ文獻の中でも「逮」と「遝」とが混用される。例えば、「及」義の用例としては、『秦律十八種』には、
という。『奏讞書』には、次のように、同じ簡牘に召喚の意味で、「遝」と、隸書でよく「逮」と混同される「建」字が用いられる。
『奏讞書』事案18には、召喚に應じない次の事例が見える。
また嶽麓秦簡『三十四年質日』には、墓主もしくはその關係者が召喚に應じて江陵縣もしくは監府に出頭する記載が見える。
或遝は、召喚狀もしくはその送達文書の封緘簡の上書きに用いられる法律用語。「或」字は、『周禮』考工記・人の鄭玄注等で、「有」と訓ぜられ、意味論的には「有」と明確に區別することが困難であるが、「或」が『秦律十八種』や『法律答問』等で法律用語として多用される點が注目に値する。里耶秦簡の用例でも、簡8-1343+8-0904や簡8-0144+8-0136に見える「有遝」が、召喚という事實があったことを示すのに對して、「或遝」は召喚という法律行爲そのものを表すと考えられる。