卒人、郡級長官の部下、轉じて脇付のごとく長官を直接名指しせず呼ぶ婉曲表現。『論衡』謝短篇には、
兩郡移書曰「敢告卒人」,兩縣不言,何解?
兩郡、書を移すに「敢えて卒人に告ぐ」と曰うも、兩縣、言わざるは、何(いか)にか解する。
という。さらに、1930年代居延漢簡には、
二月戊寅,張掖大守福、庫丞承熹,兼行丞事,敢告張掖農都 尉、護田校尉府卒人,謂縣:律曰:臧(贓)它物非#錢者,以十月平賈(價)計。案:戍田卒受官袍衣物,貪利貴賈(價)貰予 貧困民,吏不禁止,浸益多。又不以時驗問, 4.1、A8
文書構造 |
讀み下し文 |
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文書本體 |
書出 |
二月戊寅、張掖大守福・庫丞承熹、丞が事を兼行し、敢えて張掖農都尉・護田校尉府卒人に告げ、縣に謂う。 |
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本文 |
状況説明 |
律に曰わく、 贓の、它物にして錢に非らざる者は、十月平價を以て計(かぞ)えよ。 案ずるに、 戍・田卒、官より袍衣物を受け、利を貪り、價を貴くして貧困民に貰予するも、吏、禁止せず、浸益すること多し。又た時を以て驗問せず【……。】 |
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用件 |
【……。】 |
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書止 |
【敢えて卒人に告ぐ。】 |
というように、郡級長官の脇付として「卒人」が用いられる。一方、郡級長官の部下という元の意味で解釋できる用例は目下『秦律十八種』に見られる傳食律の下記の規定しか出現していない、
179 御史、┘卒人使者,食粺米半斗,醬駟(四)分升一,采(菜)羹,給之韭、葱。其有爵者,自官、士大夫以上,爵食之。使者
180 之從者,食䊪(糲)米半斗;僕,少半斗。 傳食律
御史・卒人の使(つかい)する者、粺米(しろごめ)半斗、醬(ひしお)四分の升一、采(菜)羹を食し、之れに韭・葱を給す。其れ爵を有する者、官・士大夫より以上は、爵もて之れを食す。使者の從いし者は、糲米(くろごめ)半斗を食し、僕は、(糲米)少半斗(を食す)。 傳食律
御史との竝列關係および『論衡』謝短篇の記述に鑑みると、「御史」が中央から派遣されて「使」しているのに對し、「卒人」は、郡級の長官から派遣された部下と推測されるが、名稱の由來や正確な意味は未詳。