共同研究プロジェクト
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 タイ文化圏における山地民の歴史的研究
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●プロジェクトの概要

  中国西南部から大陸東南アジア北部に跨がるタイ文化圏の歴史においては、タイ系民族の盆地政権がその周辺の山岳地帯に居住 する山地民を緩やかに「統治」した。19世紀以降、タイ文化圏は中国、ミャンマー(ビルマ)、タイ、ラオス、ヴェトナム及びインドの六ヶ国に組み込まれ て、盆地政権は消滅した。盆地政権の領民はこの六つの近代領域国家に同化を強要されはしたものの、タイ文化圏はなお存続している。これまで研究者は、盆地 政権中心にこの地域全体の歴史を再構築してきたが、山地民が盆地政権の存続を揺るがす存在であるにもかかわらず、山地民の歴史的役割を重要視してこなかっ た。本プロジェクトの目的は山地民の歴史的役割を明らかにして、その役割を総合的に概念化することによってタイ文化圏の歴史的形成を再解釈することであ る。
  
このような再解釈によって、これまでタイ系民族側から叙述されたタイ文 化圏の歴史がもっと公平に見られるようになると期待できる。これまで山地民が果たした歴史的役割を重視しなかった理由としては、以下の二点が挙げられる。 第一に歴史家は、この六ヶ国における近代国家の建国に貢献した文化や民族が果たした役割を強調する視点から歴史を再構築してきたが、山地民は貢献度が少な いため等閑視されてきた。第二に、研究者は各民族集団の固有な文化と歴史の解明を目的に、個別的に研究してきたため、山地民が共通に経験してきた歴史とい う視点が見落とされてしまった。夥しい数の民族集団が居住する地方はそれぞれ異なるが、その歴史体験の共通性を明らかにする視点を採用する手法によって、 タイ文化圏の歴史に対する統一的な理解を深化させることを、本プロジェクトは目指している。
 山 地民の歴史研究には史料的な制約があり、先行研究も乏しいため、プロジェクトの運営上以下のような措置をとる。山地民の多くは自己の文字を有しないので、 盆地のタイ系民族や、中国とビルマ王朝の史料、及び西洋人など、外部の人間の手による資料に依存せざるを得ない。そのため歴史学者以外にも言語学や文化人 類学などの専門家の参加によって学際的なアプローチを採用する。さらに、一年目ではコアメンバーの共同研究員で、山地民の歴史を構想する枠組みを作り上 げ、二年目以降その枠組みに沿う形で共同研究員を増やして研究を進行させる。なお、本プロジェクトは、昨年度から開始された科研費基盤研究B「言語・文化 調査に基づくパラウン史の解明」と連携し、現地調査を踏まえた事例研究の分析も行なう。

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●プロジェクト期間
 2006年度〜2010年度
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●プロジェクトメンバー
[主査]ダニエルス
[副主査]新谷忠彦
[所内メンバー]中見立夫、陶安あんど
[共同研究員]飯島明子、樫永真佐夫、片岡樹、加藤高志、小柳美樹、山田敦士
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●研究会実施報告
 2006年度第3回研究会(2006年9月30日(土)開催)(PDF)

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