私たちアジア・アフリカ言語文化研究所は、2010年4月より、新たな研究軸設定のための4つの「基幹研究」をたちあげました。「中東・イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成(以下、MEIS 2)」はそのひとつで、レバノンのベイルートとマレーシアのコタキナバルを拠点に、国際的な視野に立った共同研究をはじめ、若手研究者の育成や研究資料の蓄積、公開など、さまざまな活動をおこなっています。

 2010年の「豊饒なる埃及」展から三年を経て開催いたします、今回の企画展「中東古地図遊覧―中東の古地図をグーグルマップに重ねてみる」は、MEIS2の研究成果のひとつをご覧いただくものです。本展では、十九世紀から二〇世紀はじめにかけ、オスマン帝国の領土を描いた古地図6点の実物を展示するとともに、AA研が所有する古地図のデジタル情報と「グーグルマップ」を重ね合わせる「多層ベースマップシステム」を、みなさまに体験していただきます。

 古地図は、それが作成された時代に特有の情報を豊富に含むだけでなく、その時代の人びとが共有していた空間認識や世界観をも語ってくれます。それは、それ以前の時代の人びとから受け継いできた情報の集大成であると同時に、次の時代の人びとが出発点とした情報だったのです。

 私たちはそれをながめながら、過去と現在のあいだを行ったり来たりすることができます。現代の私たちは、地図に描かれた地域が、その後、大きな変貌を遂げることを知っていますし、また私たちは、その地図のなかに、今では思いもつかないような過去の姿を見出すことにもなるでしょう。さらに、いま、私たちが慣れ親しんでいる「グーグルマップ」に古い地図を重ね合わせてみることで、そのことが、よりはっきりと認識できるのではないかと考えます。

 古地図には、オスマン政府が作成したもののほか、ヨーロッパ人が作成したものや、その文字情報をオスマン語に翻訳したものもあります。いま、中東地域は、今後の世界の動向に確実に影響を及ぼすであろう甚大な変動の渦中にあります。こうした激動の時代にこそ、その地域がたどってきた100年前や200年前の姿を、もう一度、見つめなおすことには意味があると考えます。そして、なにより、みなさまには、こうした古地図を見る楽しさを味わっていただきたいと考え、本展を開催いたしました。

 展示をご覧になったみなさまの率直なご感想やご意見を頂戴できれば幸いです。



 アジア・アフリカ言語文化研究所
所長 栗原浩英
展示担当 黒木英充