ご挨拶
 いま、私たちアジア・アフリカ言語文化研究所は、文字に関するさまざまな研究に意欲的にとりくんでいます。次世代のネットワーク社会にむけた文字のデジタル化はもちろんのこと、過去から私たちがゆずりうけた大切な財産である文字そのものに注目し、いまだ知られざるその歴史やルーツの解明など、「文字はどこから来て、どこに行こうとしているのか」という文字の過去と未来に同時に目をむけたスケールの大きな研究に力を注いでいます。そうした私たちの研究の成果を広く知っていただくための試みとして、文字の展覧会「好奇字展―漢字と東アジアの文字周遊」を企画しました。

 今回の展覧会は、二〇〇二年、二〇〇四年に開催し、好評を頂いた「アジア文字曼陀羅〜インド系文字の旅」 「アラビア文字の旅―線と点」につづく、「文字の旅シリーズ」の第三弾です。「文字の宝庫」といわれるアジアは「漢字」「インド系文字」「アラビア文字」など、それぞれにユニークな特徴をもった文字たちが、たがいに交じりあい、ぶつかりあい、わかれあいしながら共生している文字の共同体です。これらを私たちは「文字の旅」に見立て、企画展の共通テーマとしてきました。

 本展のテーマは、私たちになじみ深い「漢字」です。漢字が中国を代表する文化のあらわれであることは皆さんがご存じの通りです。東アジアの文字文化は、当然ながら漢字に強い影響を受け、あるものは漢字を取り入れ、あるものは漢字を変容させ、そして、あるものは民族独自の文字を保ちました。漢字と周辺の文字には、文化と文化のせめぎ合いを見出すことができるといえます。

 この企画展は、単に漢字や書の歴史や変化をたどるものではありません。

 「漢字の多様性」「漢字と非漢字の接触」「漢字に影響されて誕生した文字」「漢字圏の周辺で独特の字形を保つ文字」などのテーマで、展示品やパネルなどを覧いただき、東アジアの文字文化に広く親しみ、「好奇心」をもって漢字を楽しんでいただくのが目的です。展示ではスタンプやオブジェ、映像など様々なかたちで、各種の文字を見たり触れたりしていただきますが、その背景には、最新の研究や画像加工技術、また世界でも類をみない特殊なフォントなどが活用されていることもご理解いただけると思います。

 この展覧会は、私たちアジア・アフリカ言語文化研究所の研究成果を広く公開し、みなさまのご理解とご支援を賜りたいと企画されたものです。さまざまなご感想、ご意見を頂戴できれば幸いです。

 では、「文字の旅」を、どうぞごゆっくりお楽しみください。

東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所長 大塚 和夫
好奇字展−漢字と東アジアの文字周遊実行委員長 荒川 慎太郎



「好奇字展―漢字と東アジアの文字周遊」スタッフ

[主催]
[監修]
[制作実行委員]
[制作アドバイザー]
[会場設計・展示制作]
[制作協力]
[テキスト執筆・資料提供]





[展示図書協力]
[パネルデザイン]
[彫刻制作]
[映像制作]
[WEBサイト制作]
[パンフレット制作]
[号外制作]
[グラフィティ制作]
[会場ガイド]

[協力]
  東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
荒川慎太郎(AA研) ・小田昌教(中央大学)
大塚和夫(AA研)・町田和彦(AA研)・峰岸真琴(AA研)
小田マサノリ(イルコモンズ)
文字鏡研究会・有限会社エムズ・AA研情報資源利用センター・プリント永山・原田晶光堂
荒川慎太郎(AA研)・伊藤智ゆき(AA研)・呉人徳司(AA研)・澤田英夫(AA研)
陶安あんど(AA研)・董珊(AA研客員)・豊島正之(AA研)・中見立夫(AA研)
星泉(AA研)・三尾裕子(AA研)・清水政明(首都大学東京)・清水亨(日本大学)
立石謙次(日本大学)・武田和哉(奈良市教育委員会)・澤本光弘
重森博(有限会社エムズ)・岡野賢二(東京外国語大学)・海老原志穂(東京大学)
菅原純(AA研)・承志(地球研)・武内康則(京都大学)
AA研文献資料室・東京外国語大学附属図書館
小田昌教
井浦千砂(東京藝術大学)・木本諒(東京藝術大学)・白尾加奈子(東京藝術大学)
小田マサノリ・飯塚嘉美(武蔵野美術大学)
鎌田幹子・河本剛之・小田昌教
鎌田幹子・小田昌教
刀禰絢子(武蔵野美術大学)・大塚和夫・荒川慎太郎・小田昌教
木村佳代(中央大学)・小田マサノリ
外川典子(キャンパスクリエイト)・古田典子(キャンパスクリエイト)
竹谷健寛(東京外国語大学)・河野千早穂(東京外国語語大学)
鈴木崇之・附田俊江・鈴木貴樹・竹谷健寛・河野千早穂・鳥井美奈・藤川洋子・藤田万里子
渡部良子・長崎郁・小林宏和・青木悠一・岩佐恒児・森大樹・中山利恵・貝森ようこ・高坂香



謝辞にかえて
 ふつう、「3作目」は地味です。
『エイリアン』も『ターミネーター』も『マトリックス』も、3作目はそんな感じがしませんか?2作目が盛り上がった作品は余計そんな印象が強いです。
今回の展示も「文字の旅」3作目です。好評を博した「アラビア文字展」の続きですね。
公式にはいわゆる「完結編」ですね。さあそして、いやあな地味ジンクスを裏付けるがごとく、お題はあの「漢字」です。始める前から、真っ黒・真っ暗な展示会場が私の脳裡をよぎりました。
 この不安が払拭できたのは、展示会開始の一週間前。小田さんとアシスタントの皆さんの制作スペースを見てからです。何でしょうこれは。甲骨文字が柔らかいのですよ!丸いのですよ!西夏文字が現代に生きているのですよ!実際ご覧になっていない方には意味不明の感想ですが、およそ私の常識では考えられない、「文字の」色と、音と、動き。そう、展示会場を一番楽しんだのは実は私かもしれません。うっかり企画書を出してしまった一年前の自分に、ありがとう。
 今後もこんな展示会はあるのでしょうか?あるといいですね。

 展示会に協力してくれた皆様に、お越しくださった皆様に、深い感謝をこめて。


荒川 慎太郎