国立民族学博物館所藏「中西コレクション」
B32
玄中寺碑文拓本
パスパ文字、モンゴル語

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これは、中国の山西省交城県石壁山にある仏教の名刹玄中寺の、元代に建てられた聖旨碑の拓本です。パスパ文字資料の中でもっとも多いのは、こうした聖旨碑です。碑文の冒頭には「永遠なる天の力と大いなる威光の加護によりての皇帝の聖旨」とあり、チンギス・ハーンの聖旨を引用しながら「詔勅において、僧侶達、キリスト教徒達、道士達は、すべての租税を遵守せずして、天に祈り、祝福を与えるべし」とし、今もまたその詔勅のとおりである、などと記されています(訳文は参考文献(1)による。全文訳は参考文献(2)にある)。

書かれていることばはモンゴル語ですが、文字はいわゆるウイグル文字系のモンゴル文字ではなく、パスパ文字です。パスパ文字は、13世紀、元朝の時代に、フビライ・ハーンが自らの宗教上の導師でもあったチベット人僧侶パスパ(パクパ)に制作を命じ、作らせた文字で、チベット文字の有頭体という字形をもとに作られたものです。横書きのチベット文字と異なり、縦書きで、行は左から右に進んで書かれます。

ところで、1981年のこと、長崎県の鷹島で、元寇の際に暴風雨で日本海に沈んだ蒙古軍の遺品、元の青銅印が見つかったそうです。その印に刻まれた文字こそこのパスパ文字でした。パスパ文字は700年も前に日本にまで届いていたというわけです。

参考文献:

  1. 中野美代子著『砂漠に埋もれた文字 パスパ文字のはなし』(ちくま学芸文庫)
  2. 照那斯図著「関于玄中寺八思巴字蒙古語聖旨碑刻」『八思巴字和蒙古語文献I 研究文集』(アジア・アフリカ言語文化研究所)

(星 泉)