国立民族学博物館所蔵「中西コレクション」
B11
『神字日文傳』(上)
神代文字

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『神字日文傳』は江戸時代の国学者神道家である平田篤胤が著したものです。この書物では、日本に固有の文字(神代文字)があったという説が唱えられています。今日いわゆる神代文字と呼ばれるものは多種ありますが、対馬の阿比留家に伝わったとされる「日文(ヒフミ)」が特に有名です。現在は、神代文字に関して、固有性はもちろん信憑性についても、学問的に否定されています。

『神字日文傳』の中で平田篤胤が特に注目した「日文」は、朝鮮のハングルとの著しい類似性が指摘されています。一方、朝鮮李朝の世宗の時(15世紀の中頃)制定されたハングルは、子音字と母音記号の組み合わせなどの基本的な構造がインド系文字にそっくりです。ハングルは、成立過程で、インド系文字であるチベット文字を元に作られたパスパ文字の影響を強く受けたと考える学者も少なくありません。

想像をたくましくすれば、「日文」は、インド系文字の構造を受け継いで成立したハングルが何らかの事情で対馬の阿比留家に伝わり、さらに神代文字として誤解されるという数奇な運命を辿ったインド系文字の仲間かもしれません。

(町田 和彦)