国立民族学博物館所藏「中西コレクション」
B03
マンヤン文字刻印の竹製容器
フィリピン、マンヤン文字(南部)

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フィリピン、ミンドロ島内陸部高地の少数民族の一つ、ハヌノオ・マンヤン族の使っていた竹製の容器です。南アジア・東南アジアには、嗜好品の一種としてビンロウ樹の実と石灰をまぜて噛む習慣が広くみられますが、この容器はその材料となる石灰を入れておくためのものであると思われます。

ここに刻印されているのは、ウルカイ(8音節)、アンバハン(7音節)とそれぞれ呼ばれる韻文で、伝統的にこのように竹筒に刻まれることになっています。このような韻文の多くは、求愛や恋人への賛辞を歌ったものです。

マンヤン文字は、そのシステムの上では,

(1)一つの文字が単独の母音、または、子音+母音を表す音節文字である

(2)子音の基本字が音価aを含み、それ以外の母音は補助記号によって表される

という点でインド系文字の特徴を残しています。

しかし、文字の多くは2〜3本の直線からなる幾何学的なもので、形態の面から見ると、直感的にはローマンアルファベットに近く感じられるくらいインド亜大陸や東南アジア大陸部の文字とはかけはなれています。

マンヤン文字には上下左右に決まった向きがなく、左利きは左右反転した文字を書くそうです。なんと、この文字の使い手はアルファベットで書かれた文字を読むときも、本を逆さにして読んだりするそうです。

(塩原 朝子)