中西コレクションとは


中西 亮
Nakanishi Akira
(1928-1994)


中西氏は、京都の中西印刷の先代の社長で、印刷業のかたわら、世界中の文字を広く蒐集したことで知られています。仕事柄、中西氏のコレクションの中心は各種の印刷物で、なかでも特に新聞のコレクションは、世界のほとんどの地域をカバーしており、その量たるや、実に膨大なものです。国民国家の形成と深いつながりをもつ新聞というメディアは、二〇世紀の重大な事件や出来事を記した現代史の史料としてのみならず、文字の資料体としての価値を持っています。中西氏が1994年に66歳で亡くなった後、その貴重なコレクションは、御家族によって、国立民族学博物館に寄贈されました。今回はそうした中西氏の膨大なコレクションの中から特に、インド系文字の手書きの資料にまとをしぼって展示させていただきました。展示を御覧になれば、お分かり頂けるかと思いますが、中西コレクションの最大の特徴は、そのヴァラエティーの豊かさにあります。集められた文字の種類ももちろんですが、それ以上に本の装丁や収集品のデザインにそれを見ることができます。漆器を思わせる朱塗りのものもあれば、金箔をあしらった黄金色に輝く豪華絢爛なものもあり、そうかと思えば、こどもの紙細工のような愛らしいものもあり、また黒革の重厚なものもある、といった具合に、そのひとつひとつがそれぞれ個性的で、かつ、美術工芸品的な魅力と価値をもったものです。そこにはインド系文字文化の「様々なる意匠」がもつ独特の風合いや手ざわりに対する中西氏の造詣の深さと趣味の確かさを感じることができます。その深い見識の背景にあるのは、おそらく「いき、わび、さび」という日本的な美意識、とりわけ京都の土地にいまも息づいている美の感覚ではないでしょうか。中西氏のコレクションを見ていると「虫食いやほころびも、またいとおかし、ベンガル文字の貝葉の留め具に錆びた五円玉がむすんだっても、かまへんのちがいますか、それもまた一興」と、そんな中西氏の声がきこえてくるような気がします。「コレクションは人なり」。まさに中西氏の人柄がしのばれるコレクションです。中西印刷のモットーである「山椒は小粒でもびりりと辛い」を地でいくような小気味よいコレクションをどうぞお楽しみください。

前にもどる