今月のエッセイと写真集 バックナンバー |
(1998年12月)
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天然冷水器
カイロの街角では素焼きの壷(ジィール)が置いてあるのをよく見かける。中に
入っているのはただの水で(恐らく水道水)他に何の仕掛けもないが中の水は
外気温より冷えている。素焼きの壷なので水がたえず壷から滲み出し、その水が
外気に触れて蒸発する時の気化熱の放散で、壷と一緒に中身の水も冷えるという
訳である。コップが備え付けてあることが多く、喉の乾いた通行人が自由に飲める
ようになっている。
ジィールの横に立っていると、パリッとした身なりの青年が颯爽と歩いてきて立ち
止まり、慣れた手つきで壷を取り上げ、ごくりと一口飲んでから立ち去った。歩みを
止めてから再び歩き出すまでその間約5秒の早業である。
アラブ民話では、巷間を賑わしている妙薬など必要のない「ジィール何某」という
好漢がしばしば登場するそうである。
(1997年12月24日、エジプト・アラブ共和国、カイロ市ショブラ地区にて。小田淳一 撮影)
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