私たちアジア・アフリカ言語文化研究所は、2005年4月から5年にわたって文部科学省の特別経費による「中東イスラーム研究教育プロジェクト」を推進してきました。このプロジェクトは、中東地域を中心とするイスラーム世界の政治・社会・文化について、高度な研究プログラム、教育プログラム、社会貢献プログラムを有機的に結びつけながら同時進行させるもので、これらの地域に住む人々がいかなる歴史と文化を持っているのか、広く一般に公開することも、私たちのプロジェクトの重要な使命のひとつです。
1798年にエジプトを占領した、かのナポレオン・ボナパルトを引き合いに出すまでもなく、エジプトは長くヨーロッパ人の知的好奇心をかきたててきました。フランスの王立工芸院で建築を学んだあと、20歳になるかならないかでエジプトに渡った作者プリス・ダヴェンヌは、現地語のアラビア語にも堪能で市井の人々と直接言葉を交わすことができたうえに、ムスリムと同じ服装をしてイドリース・エフェンディと名乗るなど、すっかり現地に溶け込んでいました。また建築を学んだおかげで、遺跡のレリーフやヒエログリフを正確にスケッチすることもできました。彼がこのように見事なスケッチを残すことができたのも、エジプトの風俗・習慣への強い関心と建築で鍛えた写生技術があいまってのことだったのです。
もちろん、当時のヨーロッパ人の東洋趣味がそれなりに彼の作品に反映されていることは否定できません。それでもなお、彼が描いたナイル流域に暮らす人々の肖像画は、古代文明の遺産に留まらないエジプトやエチオピアの豊饒な文化的伝統の存在を、私たちに教えてくれるのです。
この展覧会は、私たちアジア・アフリカ言語文化研究所の研究成果を広く公開し、みなさまのご理解とご支援を賜るべく企画されたものです。率直なご感想、ご意見を頂戴できれば幸いです。
アジア・アフリカ言語文化研究所 所長 栗原浩英
展示担当 髙松洋一 飯塚正人