共同研究研究資源15概 要研究者養成共同利用・共同研究課題■人類学系【多元的想像・動態的現実としての「華人」をめぐる研究】2011〜2013年度 代表者:津田 浩司(東京大学) 所員1/共同研究員9本研究は、今日主に東・東南アジアの各地で、ある一群の人々がどのように「華人であること」を生き、またどのような広がりでもって彼らなりの「華人世界」を思い描き、新たな関係性を構築しようとしているかを、多角的に明らかにすることを目的としている。言うまでもなく「華人であること」は、それぞれの地で歴史性を帯びた文脈依存的なものであり、また近年その「華人」たちを取り巻く環境も、東南アジアをはじめとする各国での政治状況の変化、国際地政学上の中国のプレゼンスの高まり、あるいはグローバル化のさらなる進展などを受け、大きく変わりつつある。本研究ではこうした事態を踏まえ、様々な出自や背景、文化要素を身に帯びた人々が、現在どのようなことを背景に、どのような「記憶」を(再)生産し、またそれによってどのような「我々の広がり」を想像し、かつ現実に立ち上げようとしているか、そしてそれが当事者もしくは外部者によってどのような意味で「華人」であると認識されるのか、その過程を具体的事例に即しつつ多元的に明らかにする。この作業を通じ、何らかの社会事象を学術的に「華人」と一元的に表象することの意義と限界を検討する。【東・東南アジアにおける地域間越境移住の人類学—結婚(離婚)移住ネットワークにみる文化・エスニシティとアイデンティティー】2010〜2012年度 代表者:石井 香世子(東洋英和女学院大学) 所員2/共同研究員13本共同研究課題では、東・東南アジア各地(日本・中国・韓国・香港・台湾・フィリピン・ベトナム・タイ・マレーシア・インドネシア)をフィールドとする内外の研究者を集め、東・東南アジア地域に近年発達しつつある、越境結婚/離婚移住ネットワークの多方向性・重層性・環流性について分析する。これまで人類学の分野では、東・東南アジア地域を対象とした移動研究・越境移動研究が数多く蓄積されてきた。しかし一方で、今日の越境移動の重要な一角を占める結婚移住に焦点を当て、その移動ネットワークの多方向性・重層性・環流性に注目して分析した研究は未だ少ない。ましてや、国際離婚にともなう離婚移住に着目した研究は皆無に近い。本研究ではこれらの越境移動事例に焦点を当てて研究することで、人類学の移動・移民研究分野において新たな知見を発見することが期待される。【社会開発分野におけるフィールドワークの技術的融合を目指して】2010〜2012年度 代表者:増田 研(長崎大学) 所員1/共同研究員14本研究課題は、文化人類学に隣接した今日的な実践的分野である社会開発における研究活動に必要とされるフィールドワークの技術的融合を目的とする。具体的には、(1)参与観察とインタビュー調査を中心とする文化人類学の方法論を、広い意味での社会調査のなかに適切に位置づける、(2)疫学・統計といった数量的調査および空間情報システム(GIS)によるアウトカムを、質的調査の成果と組み合わせる方法を模索する、(3)アジア・アフリカにおける人口静態・動態調査(Demographic Surveillance System)のアウトカムに対しての検討を適して技術的融合の可能性を探る、および(4)これらの技術を参加型開発の実践に応用する手法を見いだす、以上の4点を活動内容とする。社会開発分野においては人類学と同様に「フィールドワーク」を必要とするとはいえ、Rapid Ethnographic Method (Rapid Appraisal)のような、時間をかけずに手っ取り早く調査を済ませる方法論が提唱されている。しかし我々は、このような「目的に向かつて単線的に進む調査手法」からそぎ落とされてしまう「ノイズ」にも注目し、従来型の地域の文脈に根ざした人類学的な手法、「問題をめぐって発見をあぶり出していく螺旋的思考運動」を、多様な分野における調査・分析方法と具体的データを事例に吟味し議論しつつ、新たなフィールドワークの方法論へと結びつけたいと考えている。こうした取り組みは、人類学における開発の分野だけでなく、国際保健分野などにおいて、いわゆる質的調査への需要が高まっているなかで、大きな意義を持つであろう。http://lalombe.icurus.jp/yugo_ken/
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