AA研要覧 2005
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本研究プロジェクトは、人類社会を霊長類から現生人類に至る進化の軸上で比較考察し、人類学における社会理論の新たな展開をめざそうとするものである。それによって人類の「文化」が社会形成にいかに関与しているかを再考する。社会理論のなかで第一に問題となる「集団」に焦点を当てる。「集団」の概念を霊長類進化史上におくことにより、この概念の自明性を崩し、個体レヴェルの自他認識を越え「他集団」なる抽象的な他者の生成に到る「集団」の成りたちをふくめ、「集団」の認識(perception)の生成と展開を進化史的な視点から検討する。これにより、他者認知やアイデンティティといった個体間関係、およびテリトリーの生成とその認知、規則の発生と定着の過程といった個体間関係を超えた社会事象に至る問題群に迫る。社会事象にあって、「集団」は比較的顕在化(目に見えやすい)したものである。したがって「人類社会の進化史的基盤研究」というときに、広く霊長類学的知見を含めて、人類史的規模での比較の橋頭堡が築きやすい。長期的なプロジェクト研究としては、継続的に「所有」、「制度」などを扱ってゆく予定であるが、その第一歩として、今回のプロジェクトを位置づけている。共同研究員として、霊長類学の分野からは霊長類社会学および霊長類生態学の専門家、人類学の分野からは生態人類学、文化・社会人類学、人類生態学の専門家を加えている。これに社会思想史の専門家に参加してもらうことにより、霊長類から人類への架橋の理論的意義を考察する示唆を得たいと考えている。また副次的な効果として、近年、社会生物学、行動生態学への理論的特化という傾向を強めつつある霊長類学研究を、人類との関係に再び位置づけることにより、日本における霊長類学および生態人類学の創成契機であった人間存在の根源的かつ多元的理解という学的動機を回復しうることが期待される。伊藤 詞子今村 仁司梅崎 昌裕大村 敬一北村 光二衣笠 聡史黒田 末寿杉山 祐子寺嶋 秀明中川 尚史早木 仁成船曳 建夫言語の記述にあたっては、対象言語にみられる文法現象が例外なく記述された文法規則にあてはまるのが理想的な状況であるといえよう。ところが現実には、定義のはざまにおちこむさまざまな現象がみられる。たとえば、形態・統語論面において二通り(またはそれ以上)の分析が可能であることは珍しくない(例:モンゴル語の特定の構文の使役分析と受動分析、フィリピン諸語の統語構造のフォーカス分析と能格分析)。一方、通言語的にみると、同じ用語で記述されたものでも実質が異な(ってみえ)るものもある(例:タイ語における「語」とアメリカ原住民語における「語」)。それぞれの現象は文法記述(文法理論)における定義の多様性に起因するものなのだろうか、もしくは文法現象の歴史的変化を反映しているのか、それともそこにはこれらと性質の異なる言語に関する事実が隠れているのだろうか?本プロジェクトでは、文法記述において先行研究における定説とは異なる分析がより適切であったり、データが定義にすっきりと当てはまらない具体的な例をとりあげ、具体的なデータを見ながらその示唆する内容について考察する。このために、類型論的にも地理的にも多様な言語を専門とする研究者をメンバーとする。梅谷 博之大角  翠奥田 統己風間伸次郎菊澤 律子北野 浩章桐生 和幸栗林  裕小森 淳子佐々木 冠沈   力鄭  聖汝角田 太作當野 能之中村  渉野瀬 昌彦林   徹匹田  剛PRASHANT PardeshiMark Campana箕浦 信勝山田 久就米田 信子Ratcliffe, Robert R.渡辺  己形態・統語分析におけるambiguity(曖昧性)―通言語的アプローチ―(主査:呉人徳司/所員7、共同研究員25)人類社会の進化史的基盤研究(1)(主査:河合香吏/所員4、共同研究員12)30アジア・アフリカ言語文化研究所

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