AA研要覧 2005
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ドイモイ(刷新)政策がベトナム共産党の公式な政策として提起されてから、すでに18年が経過しようとしている。この間に、ドイモイはベトナムの党・国家の諸政策(政治・経済・軍事・外交・文化等)、社会、国民の価値観のあり方に大きな変化をもたらした。しかし、この間にドイモイを対象とした研究にさほど進展があったとはいえない。とりわけ、ドイモイ研究の展開に際して不可避であると思われる次の2点に関して、議論が深化されないままの状態を続けておくことは許されないであろう。それは、第一に、ドイモイの起源に関わるテーマであり、その中には、①ドイモイの開始に際しての南ベトナムの役割、②レ・ズアン時代末期(1979年~85年)の一連の改革政策(通貨改革、農業における生産物請負制など)とドイモイの関連性をどのように評価するかという問題が含まれる。第二には、一党独裁下における市場経済導入、経済発展優先志向などの点で、ドイモイと共通すると思われる改革政策が他国にも存在する(した)事実に着目して、ドイモイを一国の枠組から脱却して考察する必要性がある。本プロジェクトは、以上のような問題認識に立って、大きく二つのアプローチに依拠しながら、ドイモイ研究の新境地開拓をめざす。第一には、ドイモイにおけるベトナム固有の要因を探究するために歴史的なアプローチを援用していく。第二には、体制比較を通じて、ドイモイのもつ普遍的な側面を解明することである。具体的なテーマとしては、第一点に関わるものとして、①ドイモイの起源に関わる諸問題(南ベトナムの存在とドイモイ、レ・ズアン時代末期の改革政策の位置付け、北部におけるドイモイに先行する諸現象、ソ連におけるペレストロイカの影響)、②集団主義体制との対比でみたドイモイ、あるいはドイモイに残存する社会主義的性格、第二点に関するものとして、中国の改革・開放政策、ラオスの新思考政策、移行経済諸国(旧ソ連、東欧など)、インドネシアの開発独裁体制との比較検討を進めている。石井  明加藤 弘之白石 昌也鈴木 基義竹内 郁雄古田 元夫東地中海地域は、商業・巡礼・移民など、古代より活発な人間移動と諸集団の交流の場を提供してきた。人類史上、グローバリゼーションのプロトタイプを最初に経験した地域といえよう。日常的異文化接触のなかで他者を受容し安全を保障するシステムについては、確固たる伝統の存在が認められる。一方、現在の東地中海地域にはパレスチナ問題やキプロス紛争をはじめ、人間移動を伴う深刻な民族・宗派問題が多数存在する。これらの問題は、ゲーム論的な国際政治の枠組のなかで分析されることが多く、現地の文化的・社会的文脈のなかに位置付ける作業は軽視されてきた。本研究プロジェクトは、人間の空間的移動と社会移動を総合した「人間移動(Human Mobility)」を鍵概念として援用し、民族的・宗派的に多様な構成をもつ東地中海地域の諸社会が、現在深刻な内部対立を孕む危機的状況に至った過程を検証するとともに、安全保障の規範や共存の論理を、人間移動の過程とそれを取り巻く環境のなかに発見し、「人間の安全保障」の議論に新たな視角を提供することを目指す。なお、本研究プロジェクトは、科研費による「新たな東地中海地域像の構築」プロジェクトと連動して進めれている。臼杵  陽小副川 琢粕谷  元北澤 義之栗田 禎子佐藤 幸男佐原 徹哉澤江 史子末近 浩太土佐 弘之長沢 栄治中村 妙子間   寧堀井  優前田 弘毅松井 真子村田奈々子森 晋太郎家島 彦一屋山久美子吉村 貴之東地中海地域における人間移動と「人間の安全保障」(主査:黒木英充/所員4、共同研究員21)ドイモイの歴史的考察(主査:栗原浩英/所員2、共同研究員6)27東京外国語大学 要覧2005

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