AA研要覧 2005
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本プロジェクトは、ヨーロッパ諸国とアフリカを中心とする旧植民地との歴史的関係において、植民地支配および奴隷貿易のもたらした損害に対する補償や謝罪の問題が双方の当事者の間でどのように論じられ扱われてきたかを検討することをつうじ、脱植民地化過程の段階・特質を明らかにすることを目的としている。そのさい、日本=アジア関係などを念頭においた比較史的観点を重視しながら、戦争責任論の中から生まれた「人道に対する罪」概念を援用し、「植民地責任」概念を提起しようとしている。アフリカにおける植民地支配はその前史としての奴隷貿易の歴史と不可分であるため、「植民地責任」概念は、必然的に、奴隷貿易の歴史にもかかわって敷衍されることになる。最終的には、この概念を用いて近代世界史の構造の中での脱植民地化過程とそれをめぐる歴史認識をアジア・アフリカの側から照射することを目指している。本プロジェクトは、研究所のすすめる三つの研究内容のうち、「地域生成に関する研究」にかかわるものであるが、「地域」を一つの限定された領域としてではなく、関係性の概念としてとらえようとしている。近年の旧植民地地域からの「補償要求」などの運動は、当該地域の人々の植民地支配の歴史についての認識を示すものであり、それは旧植民地領有国における歴史認識との相互関係の中で形成されている。本プロジェクトは、アフリカ旧植民地を中心に据えつつ、日本=アジア関係を重要な参照枠とすること、また奴隷貿易をも射程に入れた長期の歴史的視点をもつことで、従来の地域研究でともすれば後景に退きがちだった世界史の構造の問題に意識的にかかわり、また現代世界の中で具体的な解決を求められているテーマについて、歴史学的な立場から認識を深めようとするものである。そのような意図から、本プロジェクトではアフリカ史研究者、ヨーロッパ帝国史研究者、ラテン・アメリカ史研究者、日本・アジア史研究者を糾合した「地域研究」の新しいスタイルを試みている。また、若手研究者、とくにPD層から大学院生を含む研究者を目指す人々を中心に組織し、プロジェクトをつうじて若手研究者を育成しつつ新しい共同研究の成果を挙げることを目指している。本プロジェクトは科研費プロジェクトを兼ねており、年3.4回の研究会のほか、共同研究員の現地調査も並行して進めている。最新の現地調査の結果を持ち寄って研究内容を豊かにすることは、本プロジェクトの重要な内容である。最終的には、成果を商業出版で公表することを目指している。浅田 進史飯島 みどり大峰 真理小山田 紀子尾立 要子柴田 暖子清水 正義杉山 優子鈴木  茂高林 敏之旦  祐介中野  聡浜  忠雄平野 千果子舩田クラーセンさやか前川 一郎溝辺 泰雄吉國 恒雄吉澤 文寿吉田  信渡辺 和仁渡辺  司「植民地責任」論からみる脱植民地化の比較歴史学的研究(主査:永原陽子/所員1、共同研究員22)26アジア・アフリカ言語文化研究所バガンの町から2キロほど原野に入っていくと谷間の中に僧院が一つ隠れるように存在している。谷の上まで登ってきて辺りを見渡している僧が一人いた。(ミャンマー・バガン,2005年1月,高島淳撮影)

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