フィールドプラス no.2
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Feld+. 200907no2i  〒183-8534東京都府中市朝日町3-11-1 電話042-330-5600    FAX042-330-5610東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ながさき いくAA研特任研究員話者のお宅にて記念撮影。客間の家族写真にはソ連時代に撮影された白黒写真も多数あり、時代背景や日本との地理的距離を考えると実際に会って話を聞けること自体に感動さえ覚える。34Field+ 2009 01 no.1フィールドプラス 北東シベリアで話されているコリマ・ユカギール語を研究している。 言語の記述研究のフィールドワークでは実際に使われていることばのデータを集めるのが一番の目的で、たとえば話者に単語や文を言ってもらったり、さまざまな内容の話をしてもらったりして、その様子を観察・録音しながら書き留めてゆく。必要な道具は筆記用具(ノートとペン)と録音機材(レコーダ、マイク、ヘッドフォン)で、それほど特別なものはない。モノに対するこだわりと言えば、録音機材は小型で、ある程度音質が良く、電源が確保できなくても大丈夫なように乾電池で動くものを選ぶということぐらいだろうか。道具はもちろん大切だが、調査の成功はむしろ調査票がきちんとできているかということや、いかに相手に日常生活ではもうあまり使われなくなっている言語を思い出し、話をする気持ちになってもらうかということにかかっていると思っている。 それにも増して神経を使うのは気候に対応するための装備である。シベリアの気候は日本人にとって過ごし易いとは言えない。冬期はもちろん厳寒用のダウンや毛皮の防寒具が要るが、夏期は夏期で寒暖の差が激しく、気温35℃近くの日もあれば5℃以下の日もある。また雨が降ることも多いため、下着、シャツ、セーター、フリースに、防水機能のあるジャケットと、そのときどきで調節できるよう一通り揃えておかなければならない。さらに夏は蚊よけ薬と蚊取り線香、痒み止めも忘れずに用意する必要がある。シベリアの蚊の多さ、獰猛さは有名だが、衣服の上からも刺すし、髪の毛の中にも潜り込んでくる。隣村のおばあさんのところへ歩いて行くときは、出かける前に蚊よけ薬を全身に(服や帽子や靴の上からも)塗り、蚊取り線香を腰からぶら下げ、歩いている間に蚊が群がり出したなと思ったらまた薬を塗るという具合である。それでも結局は必ず何か所も刺され、免疫がないためか、痒み止めをつけても腫れあがった状態で過ごす。ちなみに10年ぐらい前のロシアでは蚊録音機材と調査ノート。筆者のために子供たちが民族衣装を着て集まってくれた。対策グッズとして蚊よけ薬が売られるのみであったが、今では品揃えも中国製品を含め割合豊富になってきているし、効き目も日本製品と変わらない。ただし、万一品切れで手に入らなかったときに備え、少量は日本から持って行った方が良いようである。 そんなわけで帰国して鞄を開けると、残った蚊よけ薬を目にする。そういえばシベリアには、魔物を焼き殺した火の粉が飛んで蚊になったという言い伝えがあったのだったな、今度は蚊の話も聞いてみようなどと考えて調査準備ノートに書きつけ、次のフィールドワークに備えることになる。調査の合間に魚釣り。川で泳ぐ人々。真夏は川で泳げるほど気温が上がる。10月、川は氷で覆われる。フィールドワーカーの鞄長崎 郁

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