フィールドプラス no.2
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3131Field+ 2009 07 no.2 なお、筆者は常時、その大半が女性の人物写真の見本帖を持ち歩いている。見てもらって、「こういう風に撮りますよ」と説明すると、乗ってくるのは男性よりも女性のほうである。●ねばる これという人物のときは、腰をすえて撮る。調査者はフィールドで透明人間になるのが理想とすれば、撮影者としてそれに近くなるのは、数多く撮って、相手を撮られることに慣らしてしまうことである。 縦位置で構える。縦位置に構えるとは、通常の横位置と違って、それだけ撮ろうと意識することにもなる。実は、横位置と縦位置の比率で腕がわかる。上級者ほど縦が多い。 一人を、アップ、バストショット、ニーショット、全身像の4セットで撮る(人間は瞬きをするので、安全を考えて各間合いで最低3枚ずつ、合計12枚)。つまり、被写体との間合いを4段階に撮り分けるのである。ついで、横位置でもアップ、バストショットの2カットは押さえる。 この4種類の間合いでは、アップが一番易しく、全身像が一番難しい。ときにはどアップも撮っておく。寄れるだけ寄ってシャッターを押す、技術不要で度胸がいるだけ。 デジタルでは昔のようにフィルム地獄に泣くこともない、労を惜しまずど厚かましく枚数を撮るのが、なによりも上達の早道。●構図 人物写真では、構図が大切。人物が画面の真ん中に来る、いわゆる日の丸構図を避ける。人物を関節で切らない。全身像なら足首で切らないで、つま先まできちんと画面に入れる。 人物がカメラ目線でないときは、視線の向いている方向に空きをつくる。主題が花や樹でもその向いている側を空ける。この空きは、話の間のようなもの。間をいかに活かすかが、腕の見せどころ。もちろんピントは鼻先や眼鏡にではなく瞳に。●色調 デジカメは初級機ほど、色鮮やかに写る。今もってコーカソイドの肌色が好まれるため、日本製カメラは、日本女性の肌がより明色に出るように調整してある。不況のせいもあってか、観光地のポスターの桜は、この春より鮮やかで色濃い。いわゆる印象色・記憶色であって、現実の花の色ではない。 肌の色、桜の色はさておき、資料写真を撮るときには、モノの色を正確に出すようにご注意を。そのためには、カメラ任せのオートではなく、ホワイトバランス(WC)を自分で調整する。やり方はカメラによって異なるので、取扱説明書をまじめに読んでおかないといけない。 人物写真に限らず、よいフィールド写真とは、色調が正確であることに加えて、物語を紡ぎ出せるような、いずれ現場の語り部となるような、その場の音が聞こえてくるような、リアリティー豊かな〈資料価値〉+〈α〉のある写真のことであろう。人を撮るときは、この+〈α〉の比重がより大きくなる。最終的にものをいうのは、撮影者の人間力。 そこで最後に、その逆が真ではない格言的独白を:優れたフィールドワーカーは写真がうまい !ひげ男(イラン)背景にカスピ海沿岸に特徴的な町並み、右上の空で画面に広がりが出る。フィールドでの人物スナップは、巧まざる背景説明が入っているのが望ましい。クルド遊牧民(イラン)ヤギ毛製の黒いテントを漏れる自然光で横位置のアップ。きれいにぼけた右側の空きが味噌。チベット遊牧民(中国青海省)白い帽子とバランスがとれるように風に吹かれる長髪を入れた。日の丸構図でないことに注意。フンザの少女(パキスタン北部)通常の子ども目線ではなく、可愛らしさを出すために上方から。瞳に撮影者が映っている。自写像でもある。バザール商人(イラン)どアップの一例。ピントは必ず目に。顔がやや斜めになっていること、左右の空きが均等でないことが決め手。ワヒー族の乙女(パキスタン北部)シムシャール・パミールの4700mの夏営地にて。顔色を正確に出すことに注意した。まさにこの日焼け顔。ワヒー語は東イラン語パミール諸語のひとつ。農耕遊牧民である。

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