about athabascan



●アサバスカとは
「アサバスカの人々」といっても、決して単一の言語・文化・歴史を共有するコミュニティーを成すわけではありません。「アサバスカ」とは、基本的にアサバスカ語族の諸言語を話す人々ということでのまとまりに過ぎず、居住地域ではアラスカ、カナダ、合衆国南西部、さらにカリフォルニア北部までの太平洋岸をもふくむ広い範囲におよび、ひとくちに「アサバスカの人々」といっても、文化の面でも、歴史の面でも非常に多様です。

アサバスカ諸語は、主に南西アラスカで話されているイーヤック語およびトリンギット語と遠い親類関係にあることが知られています。現在有力とされる学説によると、これらの人々の共通の祖先が住んでいたのは南西アラスカの沿岸部、もしくは内陸の大きな湖が点在する地域であるとされています。アサバスカの人々はこの故地からユーコン川、タナナ川に沿って西のアラスカ、そして南のブリティッシュ・コロンビアへと広がっていったと考えられます。南に向かった部族の中にはさらなる旅を続けた人たちがいました。その動きは、太平洋岸を下り、ロッキー山脈を越えて、アメリカ南西部に至り、さらに大平原北部に出て、カナダ内陸北部を東進し、遠くハドソン湾に届くという大移動でした。このような大移動を成し遂げられたのは、アサバスカの人々の狩猟の技術が他に例を見ない効率的なものであったからであろうと、人類学者の間では考えられています。この狩猟法は、多くの場合コミュニティー全員が協力し、獲物を袋小路に追い詰めることで効率的に狩りを行うというもので、その効率のよさゆえに、厳しい自然環境においても繁栄を保つことができたのでしょう。また、北西海岸地域に最初に弓矢の技術を伝えたのはアサバスカ諸部族であるとする考古学的研究もあります。これは、アサバスカの移動が始まったと考えられる時期に北からの弓矢の技術の広がりの時期が重なるためです。

アサバスカの人々の文化は概して非常に保守的で、この保守性が複雑な社会構造、複雑な言語構造を作り上げる一要因となったのでしょう。アサバスカ諸語は構造的に非常に複雑で、外国語として習得するのも難しいという印象が強くもたれてきました。アサバスカ諸語を話す人々と、他の言語を話す人々が社会的交流を持つ状況では、アサバスカ諸語の話者たちが相手の言語を習うほうがその逆よりも一般的であったようです。また、アサバスカ諸語の話者たちは、白人との接触以前は、他の言語からの語を外来語として借用することもあまりありませんでした。この保守性と独立独行の姿勢、それがアサバスカの人々の言語と文化を、時代を超えて支え続けてきたのかもしれません。




[アサバスカの7つの言語集団]
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アラスカ
アラスカに住むアサバスカの人びとは、現在のカナダからユーコン、タナナの2つの川を西進し、アラスカに入ったのであろうと考えられています。インガリック-ホリカチャックはユーコン川に沿って移動した最初のグループであったようです。アラスカ東部の上タナナ語、ハン語、クウィチン語では比較的最近大きな音変化が起こっており、その変化は、西ユーコン・アサバスカ諸語の北トゥチョーニ語および南トゥチョーニ語で起きたものと似ています。

アラスカグループの言語:タナイナ語、アトナ語、インガリック語、ホリカチャック語、コユーコン語、上クスコクウィム語、下タナナ語、タナクロス語、上タナナ語、 ハン語、クウィチン語

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ユーコン
現在のユーコン準州は、アサバスカの人びとがもともとすんでいた地域(故地)の一部であったと考えられています。その歴史の深さゆえにこのユーコン地域では非常に多様な言語が話されています。この地域からアサバスカの人びとは北西のアラスカ、そして南東のブリティッシュ・コロンビア南部へと広がっていきました。その分派は、まもなくさらに南下を続け、その後東へも広がっていきました。

ユーコングループの言語:北トゥチョーニ語、南トゥチョーニ語、タギッシュ語、タールタン語、キャスカ語、セカニ語、ビーヴァ語、ツェツァウト語

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ブリティッシュ・コロンビア
現在のブリティッシュ・コロンビア北部は、アサバスカの人びとがもともとすんでいた地域(故地)の一部であったと考えられています。ブリティッシュ・コロンビア南部の諸言語は、北部諸言語とは別のグループに属しており、母音が隣接する子音の影響をうけるなどの音変化がみられる言語もあります。

ブリティッシュ・コロンビアグループの言語:ウィツウィテン-バビーン-ハクウィルゲート語、キャリア語、チルコティン語、ニコラ語


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東部
カナダ東部に位置する大きなグループは、ブリティッシュ・コロンビアから比較的最近広がってきたようです。有力なスレイヴィ語の影響は西に広がり、ビーヴァ語やセカニ語などに特に顕著に見られます。スレイヴィのコミュニティーの多くでは今でも子供たちがスレイヴィ語を習得しています。

東部グループの言語:チペワイアン語、南スレイヴィ語、北スレイヴィ語(山岳方言、ベアレイク方言、ヘア方言からなる)、ドグリブ語

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ツーティナ
このグループは数世紀前に大平原北部に移りすみました。ツーティナ語は基本的にはカナダ系アサバスカ語ですが、南部アサバスカ諸語および太平洋岸アサバスカ諸語にも遠いながらも関係があります。

ツーティナグループの言語:ツーティナ(サーシー)語

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南部
南部グループは、およそ1000年くらい前にブリティッシュ・コロンビア南西部からアメリカ南西部に移住したようです。ナバホ語はこのグループの中で最も大きく、また広く知られたアサバスカの言語で、地域によっては今でも子供たちが習得しています。

南部グループの言語:ナバホ語、西アパッチ語、メスカレーロ・アパッチ語、チリカワ・アパッチ語、リーパン・アパッチ語、ヒカリーヤ・アパッチ語、カイオワ・アパッチ語

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太平洋岸
アメリカの太平洋岸にひろがるこのグループは、歴史も古く、多様な言語を含みます。これらのアサバスカ諸部族は、ブリティッシュ・コロンビア南部から非常に早い時期に、ことによると数派に分かれて、現在のワシントン、オレゴン、カリフォルニア北部に移住してきました。このグループの言語のほとんどは現在では絶滅してしまいました。

太平洋岸グループの言語:クワリオクワ-トゥラツカニ語、上ウムプコア語、ギャリス語、コキール語、トゥトゥトニ語、チェトコ語、トロワ語、フパ語、ワイラキ語、マトール語、カト語

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alaskan southern pacific coast yukon earstern B.C. tsuut'ina